昨今、スポーツの世界でジュニアの全国大会開催の是非が問われている。全日本柔道連盟は、「過度な勝利至上主義が散見される」として、今年度から全国小学生学年別柔道大会の廃止を決めた。
この大会をきっかけに成長した選手や関係者からすれば、それがなくなるのは惜しいと思う。一方で、大会では指導者から審判への罵声が飛び、軽量級に出場するため、成長期の子どもが減量を強いられるなどの痛ましいケースがあったのも事実だ。
全柔連の判断は他の競技団体にも影響を及ぼしつつあるが、2013年から2019年まで7年にわたって東京大学野球部の監督を務めた浜田一志氏は「中学生までは県大会のレベルで十分ではないか」と話す。競技者としてのピークを高い位置にもっていくには、成長の速さにこだわるべきではないという考えからだ。そして体の成長が落ちつき、それでもなおスポーツを続けたいと思えたならば、プロや実業団、大学といった高いレベルで自身を追い込んでいけばいいと浜田氏は言う。
一方で、スポーツ推薦のない東大のような大学では、必然的に選手の技量レベルやモチベーションに大きなバラつきが出る。野球未経験の選手からプロを目指す選手まで、そのバックボーンは多種多様。これは大学スポーツというハイレベルな環境においてはかなり特殊なケースでもある。では、浜田氏はそこでの指導を通じて、学生スポーツの在り方についてどんな風に考えてきたのだろうか。(全2回の2回目。前編から読む)
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東大野球部が持つ独自の意義とは…?
東京大学に入学し、そこで野球を続けたいと思った学生に対して、東大野球部はどんな意義を持つのだろうか? 六大学野球というプロ予備軍がひしめき合うリーグでは、ひょっとしたら4年間で一度も勝てないかもしれないのだ。浜田氏は「必ずしも勝つことばかりが目的ではない」と話す。
例えば東大に限らず、運動部はレギュラー、ベンチ入り、そしてベンチにも入れない層に分かれていく。
「1年生の時にはみんなやる気があります。4年生もチームのために、という意識を持ってくれる。やっぱり、2、3年生のベンチに入れない“中間層”への指導がいちばん難しいです。3年生くらいになると試合に出られるかどうか、自分でも分かってくるわけです。試合に出られる可能性が低ければ、学生コーチになることを考慮してもらいます」