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「学生コーチ」という役職に適性を見出す選手もいる

 学生コーチは、東大野球部の運営に欠かせない存在であり、ここで適性を見つける学生もいるという。

「私は野球に限らず、ひとりのコーチが指導できる人数は20人が限界だと思っています。その意味で、100人部員がいるのだったら、少なくとも5人は学生コーチが必要です。だから部としても彼らの存在はとても重要だし、彼らもここで学ぶことも多いですよ」

 浜田氏はその一例として、社会に出て仕事をこなすための「4段階」を説明してくれた。

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1 マニュアル通りに仕事を進める。
2 「合目的性」を考慮して仕事を進める。
3 業務において「自分」を見出す。
4 仕事を他人に任せる。人を動かす。

「東大生は1と2はほぼ100パーセント出来ます。合目的性というのは、手段がちゃんと目的にあっているかを考えながら作業できるということです。例えば練習グラウンドの土をこねる時に『神宮のマウンドに近づけるためには、どのような配合が必要か』を考える工夫のことですね。

©文藝春秋

 3の「自分」を見出すというのは、業務を行う上で自分なりの発案や発想を持って、目的達成の助けにすることです。このあたりまではほとんどの部員が出来ます。ところが、4の『人を動かす』フェイズになると、東大生は途端に苦手な人が増えるんです」

 その原因は、基本的に「独力でやった方が早い」と思っている学生が多いからだ。それは根本的な基礎能力の高い東大生だからこそ陥りやすい罠だとも言える。だが、組織が大きくなればなるほど、自分に出来ることだけでは仕事の幅が限られる。それでは大きなプロジェクトを動かすことは難しくなってしまう。

「学生コーチの経験ができると、必然的に毎日、人を動かすトレーニングをしていることになる。これは社会に出てからものすごく役に立つ経験値だと思います。とはいえどうしても他人との作業が苦手な学生には、『民間企業で働くよりも、大学に残って研究の道を…』と勧める場合もありますけどね」