で、2019年のシーズン終了後すぐアメリカへ視察に行く際に『一緒に行かへんか』と、声を掛けてもらうまでになりました。本当にありがたいことです」
「これは自分にしかできないことじゃないか」
辻󠄀本監督は親密な時間を過ごすことで、筒香が心を許す存在のひとりになっていた。
「そして昨シーズン、春先はレイズからドジャースへの移籍など筒香選手のネガティヴなニュースが飛び交うなか、ふと、今後の彼の人生を映像で残さないといけない、と思ったんです。これは自分にしかできないことじゃないかって」
辻󠄀本監督の頭には“使命感”という言葉が浮かんだ。早速アメリカにいる筒香に連絡をとってみると、快くOKの返事をもらった。
「じつは僕、あまり野球に詳しくはないんです。もちろん筒香選手がキャプテンで、ホームランを量産し、年俸もむちゃくちゃ高いスター選手だということは理解していましたが、それ以上に惹かれたのは人柄なんです。
外部の人間としてチームに同行する僕を、筒香選手は本当に身内のように扱ってくれました。チームの一員として、分け隔てなく接してくれてとても感銘を受けたんです」
ベイスターズ時代からチームに携わる人たちに細かく気を配っていた筒香を思い出す。若い選手たちに筒香は「チームを支えてくれる裏方さんを大事にしなさい」と口を酸っぱくして言っていた。
また、故郷が同じ和歌山県ということも互いに親近感を深める要因になったという。通常、筒香はメディアやファンの前で話すときには標準語を用いるが、『Road to L.A.』で辻󠄀本監督と言葉を交わす際には関西弁がポロッと出る。気を許した相手に見せる素顔。関西弁のやりとりは作品に深みを与えている。
遠征先まで自らレンタカーを6時間運転する筒香…“エリート”を待ち受けていたアメリカの生活
日本ではスターだった筒香の知られざるマイナー生活。練習や試合ではまるで求道者のように野球に向き合う日常だったが、それが終わればTシャツ短パンで歩いて近くのホテルへ帰り、コインランドリーで洗濯をし、デリバリーを頼み部屋で食事をとる。そして遠征試合になると飛行機が遅延するのを嫌い、自らレンタカーを運転し、6時間かけて球場へ向かうこともざらだった。
「僕が現地に行ったときはかなり慣れた感じで、『こんなこと(日本では)なかなかないことですよね?』って訊くと『ホンマやで』と笑ってましたね(笑)。
あとオクラホマシティは田舎なのであまり日本人がいないんですけど、たまに日本からのお客さんがいると足を止めて楽しそうにサインとかしていましたね。日本でそんなことをやっていたら大騒ぎになってしまいますから、そういう意味では普段とは違う姿を見ることができ新鮮でしたね」