「そばに居てあらためて感じたのは、野球がめっちゃ好きなんだなってことです。とくにマイナーリーグは邪魔をするものが一切ないというか、野球に集中できる環境で、あの経験があったからこそ今の姿があると思います」
こう語るのは、現在MLBのピッツバーグ・パイレーツの主力として活躍する筒香嘉智にせまったドキュメンタリー映像作品『Road to L.A.』を制作した辻󠄀本和夫監督だ。
「1年で3球団を渡り歩いた男」が掴んだ“メジャー開幕四番”…その背景にあったもの
MLB挑戦3年目となった今シーズンを開幕四番でむかえた筒香。だが、その道のりでは大きな壁が立ち塞がっていた。
昨シーズン、筒香は5月にタンパベイ・レイズからロサンゼルス・ドジャースに移籍した。辻󠄀本監督が渡米したのは7月中旬、筒香がドジャース傘下3Aのオクラホマシティ・ドジャースにいたときだった。
『Road to L.A.』ではマイナー生活を送る筒香の苦悩や葛藤、またMLBにくらべ恵まれない環境のなか奮闘し前向きに野球に取り組む姿勢が描かれている。迫りくるトレード期限や度重なる代理人とのやりとり、またコロナ禍といった緊迫感あるなか、辻󠄀本監督は、筒香が8月中旬にパイレーツでメジャー復帰するまでを映像に収めた。
「本当、次から次に予想外の壁にぶつかるんですけど、それでも筒香選手はブレることなく、今自分のやるべきことに集中していました。オクラホマシティで久しぶりに再会したとき『ムロちゃん(辻󠄀本監督の愛称)がいる間に必ずメジャーに戻るから』と、筒香選手は言ってくれたんです。その言葉を信じて、カメラを回しつづけました」
辻󠄀本監督はこれまで横浜DeNAベイスターズのシーズンを追ったドキュメンタリー映像作品である2018年、2019年の『FOR REAL』、そして2021年の『BBB(BAY BLUE BLUES)』の3作品を手掛けている。そもそもどのような動機で、筒香を追うためにコロナ禍で制約の多かったアメリカへ渡ったのだろうか。
「まずは『FOR REAL』でチームに帯同し撮影をしたことから筒香選手とは徐々に親しくなっていきました。とくに2019年シーズンは、オフにポスティングによるメジャー移籍の可能性があったので、カメラを向ける機会も多く、またプライベートなども撮らせてもらえるようになり、仲良くさせてもらうようになったんです。