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 食事を並べる大判の敷紙に、修善寺のことや季節のこと等を、ほんのひと言添える。

「四季折々の表情を綴るだけでなく、同じ月でもはじめと終わりでは異なりますから、6月の初旬は『急須をば傾けつくし新茶かな』と綴りますし、下旬は『山里から初夏の息吹の贈り物』など、変化をつけます。よくお料理を全てお食べになってから『あぁ~』って驚かれるお客様もいらっしゃいますね」

女将直筆の敷紙

顧客を掴む「ファンビジネス」

 久美子女将は毎日、お客さんのチェックアウトとチェックインの間、少し手が空いた昼間に、その日、宿泊する全てのお客さんに向けて、心を込めて記す。

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 手間はかかりそうだが、お客の「持ち帰る」「コレクターになる」「リピーターになる」などの反応を聞くと、大きな広告費をかけるよりも、お客を満足させ、顧客を掴む「ファンビジネス」だ。

 コロナが蔓延するまでは、全てのお客に挨拶に行き、言葉の意図を説明していたそうだが、現在は接触を避けるために、女将自身は行かずに、配膳するスタッフが説明する。スタッフが理解しやすいようにと7パターン程に絞っているという。

客室
女将から筆者に届いた手紙

「最近ですと、お見えになったご夫婦に、『最良の時をご一緒に』『健康は何よりもの宝物』と、お客様が元気で来て下さることへの感謝の気持ちを綴ります」

 お客の反応にも大きな変化がある。