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「いつも開幕前は不安しかないんです」日本に“セカンド戦国時代”を到来させた楽天・浅村栄斗という孤高

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/05/17
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 みなさん、ごきげんよう。G.G.佐藤です。

「技巧派の二塁手はそれなりにいるけど、強打となると、どうだろうか。強いて挙げれば、横浜のロバート・ローズかなー」

 3度のトリプルスリーに輝く山田哲人選手をはじめ、強打の二塁手が豊富な今となっては信じられない話だが、20年ほど前、プロ野球の歴代ベストナインを選ぶ際に、こんな会話がなされることは少なくなかった。

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 現役のセカンドを見渡してみると、前出のヤクルト山田哲人選手を始め、2019年に26本塁打を放った西武の外崎修汰選手、昨年ルーキーながら22本塁打を記録した横浜DeNAの牧秀悟選手、一級品の守備と共に毎年二桁本塁打をコンスタントに打っている広島・菊池涼介選手などなど、有望な選手が目白押しなのである。

 今やセカンドは、戦国時代。

 その先駆者になったのは、誰であろう東北楽天ゴールデンイーグルスの浅村栄斗選手だ。30本塁打以上のシーズンが3回。20本塁打以上ならば、5回。二桁本塁打は、ブレイクした2013年から9年連続で続けている。

 正直、引いてしまう。

 引いちゃうくらい良いバッター。

4月30日のソフトバンク戦、11回にサヨナラ安打を放った浅村栄斗

「開幕前は、とにかく不安なんです」

 浅村選手は2008年にドラフト3位で西武ライオンズに入団。ルーキー時代から知っているが、最初から彼には、彼のポリシーやペースがあって、周りに流されない強さがあった。それはつまり、一流選手になるための条件であり、厳しいプロの世界では、“人の良さ“など一般社会で重宝される人間性よりも、大事なことでもある(褒めてます)。

 本人はかつてのインタビューで「トリプルスリーを達成できるような選手になるのが目標」と語っていたが、僕から言わせれば、三冠王を狙える選手である。

 浅村選手は間違いなく、日本球界におけるセカンドのハードルを上げた。そして、価値を上げた。そして、今や守備がうまいだけではNo.1になれない、怪物だらけのセカンド戦国時代真っ只中なのである。

 今年の開幕前、僕はテレビ番組の取材で浅村選手にインタビューをした。

 ご時世的にリモートでの取材になったのだが、初日は浅村選手が現れなかった。なんでも、練習に熱が入ってしまい、切り上げられなかったと。先輩である僕が待っているのに、全く失礼な話に聞こえるかもしれないが、僕はなんだか嬉しかった。

 確か翌日だったと思うが、改めて取材が設定された。そこでの彼の発言はさらに僕を喜ばせ、興奮させた。

「開幕前は、とにかく不安なんです」

 天才的な成績を残し続けている浅村栄斗選手から飛び出した言葉は、自信に満ち溢れたものになると思いきや、その真逆だったのだ。

 浅村栄斗が一流である所以がここにあるのだろう。

 不安だから熱心に練習する。普段だから、人よりもしっかり準備する。こうして迎えた開幕だが、浅村選手は期待通りの活躍を見せた。

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