お立ち台で「最高でーす!」と言わなくなった理由
3月末、高橋周が左足首捻挫で離脱。思わぬ展開で阿部に開幕スタメンが巡ってきたが、「特に『やった! チャンスだ!』という気持ちはなかったですね。与えられた所で仕事をするだけです」と過度な高ぶりはなかった。
4月1日、バンテリンドームナゴヤの広島戦。阿部は先制ソロと決勝タイムリーを放つ活躍を見せた。それでも「いや、まあ、次の日も試合がありましたし、そんなに喜んではなかったですね」と明かす。また、この日は試合前に立浪監督から「バットを立てて打て」とアドバイスを送られていた。バットを寝かせるスタイルの突然の変更だ。「すんなり受け入れましたね。その頃は打てていませんでしたし、打ってなんぼですから。バットを立てると、手がよく動きました。タイミングも取りやすかったです。見た目は変わったかもしれませんが、無駄を省く打ち方に変わりはなかったので、違和感はありませんでした」と冷静だ。
7試合連続打点は圧巻だった。得点圏では何を考えているのか。球種か、コースか、打球方向か。「もちろん、整理しますが、ネクスト(バッターズサークル)までですね。打席では一番速い球を積極的に打つことが基本。色々と考えて受け身になると、バットが出て来ません。結局、甘いボールも見逃すんです」とシンプルだった。
思い返せば、あの無我夢中だった2年間の阿部は打った後に派手なガッツポーズを見せたし、お立ち台で「最高でーす!」と叫ぶ姿も見せていた。しかし、今はそれがほとんどない。
「大島さんは本当に凄いと思うんです。いい意味でいつも淡々としていて。何年も出続けて、打ち続けている。それってとんでもないことなんですが、当たり前のようにやっています。打っても、打てなくても、淡々と」
何年も結果を出し続けた通算407セーブの岩瀬仁紀氏の言葉を思い出した。「僕は機械になりたかった。9回にやられると、もの凄く凹む。でも、それを次のマウンドに引きずってはいけない。だから、感情を持たない機械になりたかった。自分を機械化するために毎日同じ時間に同じことを繰り返したんだ」。
「感情を出すか出さないかに正解はありません。色んな選手がいていいし、その方がチームとしても魅力的です。ただ、僕は……」
ジョリ。阿部はポジションへのこだわり、打撃フォームの無駄な動き、打席での余計な情報、そして、何より結果に対する感情を削ぎ落していた。なぜなら、出るため、打つためだ。
「年も年ですし、常に覚悟はしていますが、打てないと、出られない。出られないと、クビだと思っています。でも、それがプロ」
阿部はこれからも愚直に仕事を続ける。マスターというより、1人の静かな職人として。
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