テレビのランキングコーナーで突然1位に
――確かに。90年代初め、私は女子高に通っていましたが、クラス中で『ぼく地球』のコミックスが貸し借りされまくっていました。
日渡 先ほどのエピソードは花とゆめコミックスの2巻に所収されたのですが、私自身は1巻の初版あたりまでは、のほほんと平和に仕事してました。これが「反響」というものを意識した最初の出来事だったかもしれません。
――そこで手ごたえをつかまれたんですね。
日渡 はい。あとは、夜にテレビを見ていたら、番組名は憶えてないのですが、ランキングコーナーのSF部門で、『ぼく地球』の単行本がいきなり1位の扱いになっていて。
――圏外からいきなり1位ですか。すごい。
日渡 それを偶然観た私は、翌日発熱した記憶があります。「一体何が起きてるんだ?」と思いました。思いもよらなかったので。
フィクションの世界に迷い込む読者が大量発生
――そうだったんですね。読む側としては、当時の熱心な女子読者は、軽く熱に浮かされているような印象がありました。
先生の元にも「今の自分は本当の自分じゃない、前世の仲間と会いたい」「一度死ねば前世の自分に会える?」「自分も『ぼく地球』の前世キャラクターの一人じゃないか」など、現実とフィクションの境目が危うくなった読者の手紙がたくさん届いたそうですね。
日渡 そうですね。連載が進むにつれ、そういったお手紙もありました。
――コミックス8巻(1989年発売)の欄外では、ついに先生自らが「ぼく地球はフィクションです」と宣言。これはかなり衝撃的でした。
これを読んだとき、「作者本人がそこまで言わなきゃいけないほどなのか!」と驚きました。フィクションの世界に迷い込む読者がこれほど生まれるとは、先生や編集部も予想外だったのでしょうか。
日渡 予想外でした。少なくとも私にはですが。
実は、花とゆめコミックス7巻の最初のページに《この作品はフィクションです。実在の人物・事件・団体等とは、いっさい関係ありません。》と、注意書きを入れてるんですよ。
それまでは私自身も、フィクションと現実を混ぜ合わせてしまう微妙な事態を気にかけてはいましたが、そこに触れると、読者さまが作品を楽しむ気持ちに冷や水をかけてしまうのでは……という葛藤がありました。
そうしたら、担当氏が「7巻の冒頭に注意書きを入れておくよ」とお気遣いくださって。注意書きを冒頭に入れて、様子を観ようということになったんです。