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「稽留流産ということで手術をするしかありません」

 毎日毎日基礎体温をつけており、生理の周期も把握していたため、妊娠に気づくのは極めて早かった。たぶん5週目ぐらいだったと思う。妊娠した! とわかった瞬間によぎった感情は、「困ったな」だった。2カ月先に夏休みの旅行を予約しちゃってるし、お酒も飲めなくなるし……真っ先に考えてしまったのはそんなことだった。だが妊娠を告げると、夫、そして私の母が思いのほか喜んでくれた。そしてじわじわと「自分の中に別の命がいるのか」という気持ちになってきた。

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 覚悟を決めて色々やるしかない。そう考えていたのだが、8週目になって胎児を包んでいる嚢胞(※袋のようなもの)が育っていないことがわかった。

「これ以上は難しい状態なので、稽留流産ということで手術をするしかありません」

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 医師からそう告げられた時は、悲しみより「なんで?」という怒りの方が勝っていたように思う。なぜ普通に、スムーズに子供ができたというプロセスを踏ませてくれないのか。誰にぶつけていいのかわからない怒りだった。

 それまでさんざん自費診療で、時には月10万円ほど払っていたにも関わらず、全身麻酔で大掛かりな手術をしたあとに見た診療明細書は保険適用になっていて、17000円しか払わなくてよかった。それもまた「なんだよ」という気持ちになった。

不妊治療をやめた一番大きな理由は……?

 激務で薄給の中、それなりの時間とお金をかけて辛い結果になった……というのは、私の心に少なからずダメージを与えた。本当なら「ここからまた頑張りましょう」「次は体外受精にステップアップ」となるのだろうが、そんな気にはまったくなれなかった。歳上の不妊治療をしている友人に聞いたところ、体外受精の場合、100万円はゆうにかかるという。何度も言うが薄給で激務の私にとって、そんなお金は出せない。

 夫は「子供がいたらそれは楽しいとは思うけど、2人でもいま充分楽しいし、正直楽だと思う。全部あなたの気持ちを尊重する」というスタンスだった。私も無理してお金を出してまで不妊治療にかけたいとはまったく思えなかった。100万円は大金だ。なんだかんだ考えたけれど、一番大きな理由は「お金」だった。そして流産の処置をしたあとの診察を最後に、不妊治療外来に行くのをやめた。

 度重なる不妊治療の身体的・精神的なダメージに加えて、金銭面での負担も相まって、牧村さんは治療の継続を諦めることにした。

 だが、そんな彼女は昨年から治療を再開した。治療を続けた理由のひとつは、この4月に起こった“大きな変化”だったという。(#2へ続く)