2022年4月から不妊治療への保険適用が始まった。これまで体外受精は患者の全額自己負担だったが、保険適用によって一定の条件を満たせばだれでも原則3割負担で体外受精が受けられるようになった。ただし、43歳以上は対象外である。
山王病院の名誉病院長であり、日本を代表する産婦人科医である堤治さんは「だからと言って子どもを諦める必要はありません」と指摘する。
ここでは堤さんの著書『妊娠の新しい教科書』より一部を抜粋して、43歳でも不妊治療を始められる理由、そして40代後半で不妊治療を始めたTさんの体験談を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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43歳からでも不妊治療は始められる
不妊治療の保険適用がニュースで取りざたされるようになってから、山王病院を受診されている方々にも様々な思いがよぎったようです。
特に、公的な保険において43歳未満という年齢制限を設けたことは、一般の方にもかなりのインパクトがあったのではないかと思います。
まだ20代~30代といった若い世代の方が「43歳までに妊娠・出産をしよう」といったポジティブなメッセージを受け取ったとすれば、それ自体はとてもいいことですが、現場にいる医師としては、43歳以上の女性たちに、
「保険の対象外だから出産は諦めたほうがいいかもしれない」
といったネガティブなメッセージを送ってはいないだろうかと非常に懸念しています。
さまざまな理由で妊娠が難しいカップルの「子どもが欲しい」という思いを叶えるために進化してきた医療技術が、「生殖補助医療(ART)」です。ARTとはAssisted Reproductive Technologyの頭文字で、単に不妊治療と呼ぶこともありますが、一般の不妊治療にはタイミング法や人工授精なども含まれるのに対して、ARTは体外受精や顕微授精など、卵子または受精卵(胚)の操作を必要とする生殖技術のことを言います。
確かに、図1のように生殖補助医療を受けても年齢が上がるにつれて妊娠率や生産率が低下し、流産率が上がるのは事実です。
例えば40歳の場合、生産率は10%ですが、42歳になると半分の5%に低下します。一方流産率はと言えば、30%から45%と1.5倍に増加します。だからこそ43歳以上の方は、20代~30代よりも不妊治療の費用がかさむとも言えます。
また、40歳を超えて妊娠を希望される方の中には、本人は望んでいたのに、仕事などで後回しにせざるを得なかったり、先に述べたような知識がなかったために遅らせたりしてしまった方もいるでしょう。とすれば、彼女たちが体外受精を希望する結果になったのは、社会の問題だとも言えます。