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47歳で不妊治療を始め「子を持つ喜びを諦めないで良かった」43歳で不妊治療を悩んでいる人に産婦人科医が“今でしょ!”と言いたいワケ

『妊娠の新しい教科書』より #1

2022/04/20

source : 文春新書

genre : ライフ, 医療, ライフスタイル, 社会, 読書

note

48歳1回目の体外受精で妊娠、49歳で出産

 Tさんがご結婚されたのは40代半ば。お子さんを希望し、私の外来に初診で来られた時は、既に47歳になっていました。基礎疾患もなく、健康には自信もおありだったのでしょう、「不妊治療をしたら、子どもができるかも」という思いで来院された様子でした。

 実際、初診時に行ったホルモン検査では、卵巣機能の指標であるAMH(抗ミュラー管ホルモン)が1.34と、42歳~43歳レベルの数値であることが判明。そのほかの基本的な検査でも、異常や病気などの不妊因子は見つかりませんでしたので、「卵巣年齢は若めですね。これから一緒に頑張りましょう」と、お話ししました。

「できればなるべく自然な形で妊娠したい」ということでしたので、ご本人の希望を考慮し、治療は人工授精から開始することになりました。しかし、人工授精を3回実施した時点でも妊娠に至らなかったため、体外受精へのステップアップをお勧めしました。

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 それでも「体外受精に踏み切るには壁を感じる。もう少し人工授精で頑張りたい」というのが、ご本人の意向でしたので、さらに1年ほど、人工授精による治療を続けました。しかし、1年経っても妊娠することはできず、48歳になったTさんは、いよいよ体外受精に取り組むことを決意されました。

 排卵誘発剤で卵巣を刺激し、採卵を試みたところ、1回目の採卵で初期胚と胚盤胞をそれぞれ1個ずつ得ることができました。万全の状態で胚移植をするため、とりあえず凍結しました。1回目の胚移植は、受精卵が着床しやすいようにホルモン剤で子宮内膜を整えてから移植を行う、ホルモン補充周期で実施。最初に胚盤胞を移植したところ、見事に着床することができました。

 その後、妊娠5週で胎嚢(たいのう)が見え、六週で心拍を確認することができました。7週で胎児の大きさの指標であるCRL(頭殿長/頭からお尻までの長さ)が1センチメートルを超えるなど、その後の経過は至って順調なものでした。ご本人としても「これまでの苦労はなんだったのだろう」と思うくらい、とんとん拍子に進みました。