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「内心では山井の続投を期待していました」岩瀬仁紀が明かす、中日を53年ぶりの日本一に導いた“オレ流采配”の一部始終

『証言 落合博満 オレ流を貫いた「孤高の監督」の真実』より #1

2022/06/23
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完全試合で日本一の大記録を目前にして、落合監督が下した決断

 このまま27人を完璧に抑えれば完全試合で日本一。球史に残る大記録の達成は目前だった。完全試合だけで見ても1994年5月18日、広島戦で巨人・槙原寛己(現・野球解説者)が達成して以来、27人で試合を終えた投手はいなかった。

 しかも、日本シリーズの日本一決定試合で達成となれば当然、前例はない。

 1‐0、中日が薄氷のリード。ダルビッシュからもぎ取った唯一の得点を山井が守り抜いてきた。

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「内心はそのまま続投を期待していたんですけど……」

「あそこで代えられる監督の勇気がすごい」

 味方の攻撃中、ブルペンの電話が鳴った。試合展開を考えれば聞こえるはずのない音が鳴った。内容はもちろん岩瀬への継投。この瞬間に山井が1人で完全試合を達成する可能性は消えた。

岩瀬仁紀 ©文藝春秋

「いつもだったら早い段階で9回にいくっていう話があるのですが、たぶん相談していたからワンテンポぐらい遅れたと思うんです。代わると言われたら、こっちはもうそれに向けていくしかない」

 静まり返るブルペン、最高潮の球場。日本一が決まる最後のマウンド。いつもなら守護神の登場で勝利を確信するファンも、山井の登場を信じていた。

 守護神の仕事は1イニングを0点に抑えてチームに勝利をもたらすこと。しかし、このときだけは絶対に27人で試合を終えなければならないという究極のミッションが加わった。

「絶対に3人で抑えなきゃという思いがものすごく強かった。普段はそういうことを考えないんですけど、どうしても3人で終わらないといけないと」

 目の前の状況を理解できない観客のざわめきが収まらずに始まった9回表。相手は下位打線、7番・金子誠(現・日本ハム1軍野手総合兼打撃コーチ)を三振に仕留めると、続いて代打の髙橋信二(現オリックス・バファローズ打撃コーチ)を左飛。最後はダルビッシュの代打・小谷野栄一(現オリックス・バファローズ野手総合兼打撃コーチ)を二ゴロに抑えてシャットアウト。

 9回の1イニングを打者3人、13球で無失点。前代未聞の完全試合投手リレーによって、チームの日本一が決まった。