司馬遼太郎の幻のデビュー作と言われる短編をコミカライズした『ペルシャの幻術師』がついに完結。5月20日に第2巻が発売となった。
描かれるのは、「ペルシャ」の町で生きるひとりの女性の「自立の物語」。
漫画を手掛けた蔵西は、司馬遼太郎の意外な原点ともいえる作品世界を、精緻な作画で鮮やかに現代によみがえらせた。
13世紀のモンゴルに征服されたペルシャ(イラン)を舞台にした本作は、いったいどのようにつくられていったのか。蔵西さんと、作品の監修に携わった歴史研究者の高木小苗さんのお2人にお話をうかがった。
わずか42ページの原作の行間を想像する
蔵西 コミカライズのお話をいただいた時に、司馬遼太郎先生という国民的作家の作品ですから、恐れ多くて震えあがったんです。
それに、わずか42ページしかなくてさらっと書かれていることも、短編を全部で2巻の漫画にすると考えた時に、登場人物の感覚的な部分を含め、たくさん想像する必要がありました。
特に漫画にする際は、主人公以外にも小説に書かれていない背景や他のキャラクター、建物なども描かなければいけない。それで高木先生には、とくに考証の観点でいろいろと教えていただいたわけなんです。
高木 原作に出てこない行間を埋めていく作業をお手伝いしたという感じです。13世紀の建物は地震や劣化、戦乱により失われ、現存するものは数や種類が限られているし、当時の絵もたくさん残っているわけではないので、その点ではとてもたいへんでした……。
蔵西 壊れちゃってるんですよね。町の風景を描く時などは、実際の建物が残っていなくて困りました。
高木 1巻の一番はじめの扉のところに出てくるのは、イスファハーンのイマーム・モスク(旧「王のモスク」)がモデルですね。
蔵西 そうです。以前イランを旅した友人の写真をもとにしています。この建物は時代が『ペルシャの幻術師』の時代とずれてはいるんですけど。
高木 やっぱり、このモスクはイラン文化を象徴する建物ですからね。
扉絵や表紙はイメージも大事なので、原作の世界観と矛盾しなければ、絵のモデルにする建物の時代は、多少外れてもよいと思います。
建築様式は時間をかけて形作られていくものですし。でも、イラン高原東部からあまり外れない地域のものを参考に、というお話をしていました。