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現代のイランの女性像と繋がる物語

高木 ナンの自立的なのストーリーは、今のイラン人女性にも喜ばれると思います。近年のイランの女性は大学進学率も男性より高くて。

 経済制裁とか、いろいろたいへんなことはあるんですが、でも、しなやかに生きていこうとしている。そういう意味では、ナンと通じるところがある。

 あと、この数年のイランでは『ペルシャの幻術師』で描かれたような洪水が実際に起きています。

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蔵西 洪水のシーンは、ヒマラヤのほうの写真を参考にして描きました。

 イランは乾いているイメージがあるけど、洪水なんて、不思議ですね。

イランでは珍しい洪水の起きるシーンも(『ペルシャの幻術師 2』より)

高木 あまり洪水が多い地域ではないんですが、温暖化からくる異常気象ですね。13世紀のイランの乾燥地帯で洪水が起きるなら、やっぱり幻術のような力も必要かもしれません。

 洪水もそうだし、2巻の後半からは、蔵西先生の絵の精密さが本当にすごいです。ナンと花の精の逢瀬のシーンは、原作にあるように、まさに「幻術」の成せる技ですね(笑)。

蔵西 色っぽいシーンを描くのは楽しかったです。高木先生もペルシャ語の叙事詩『王書』は、愛と無常観がテーマだっておっしゃっていたし(笑)。

高木 ペルシャ文学では、神への「愛」がうたわれていますが、親子愛や色恋も出てきますね(笑)。

 蔵西先生の描く物語は、後半の絵の緻密さにも感嘆しましたが、すでに1巻から世界観ができあがっていたな、と思っています。

 

蔵西 うれしい! でも、連載をはじめる前に最初から最後までネームをつくっていたから、安心して描けたんです。

 おおまかな流れができていて、そこからはこういう表情かな、とか、楽しくワクワクして描けました。どのくらいまで服装が許されるかとかは高木先生にご相談しながら。

高木 自分が提供した情報が、絵になっていくっていうのは今までない経験で、おもしろかったです。

 13、14世紀は絵も建物もあまり残っていない。文字史料だけで見ていたものが再現されていくのは楽しかった。

蔵西 私は、チベットのことばかり描いていたけど、調べてみると、当時のペルシャやモンゴルとも地続きで。チベットから見た世界、世界から見たチベット、って、両方から見られるようになった。

高木 逆にチベットを知っていたから、活かせた部分もあったんでしょうね。

蔵西 そう思います。世界の解像度が上がるというか、本当に得がたい体験をこの作品を通じてできました。ありがとうございました。

◆ ◆ ◆

 堂々完結となる『ペルシャの幻術師 2』5月20日より発売!

 1巻も大好評発売中です。

ペルシャの幻術師 2

司馬 遼太郎 ,蔵西

文藝春秋

2022年5月20日 発売

ペルシャの幻術師 1

司馬 遼太郎 ,蔵西

文藝春秋

2021年12月15日 発売

 

人物撮影/釜谷洋史