1950年代では斬新な原作の言語センス
蔵西 作品内には、架空の場所の名前が出てきますね。
ナンたちのいる町・メナムは、トルクメニスタンのメルブをもとにしているのかな、と思ったんです。
でもおそらく、地形的にはもっと山の中の、アフガニスタンとイランの境目あたりでしょうか。
高木 メルブは意識していると思います。あと、プシュト山脈は、「パシュトー(プシュト)語」を、メナムの東方のバークフはアフガニスタンの「バルフ」を、とか。言葉遊びがありますね。
「キャラバン」も出てきます。当時の日本では異国情緒的な言葉です。砂漠の地が舞台の斬新な小説として読まれていたのかと。
一方、ナン、アッサムなど、人名はどこの人かははっきりわからないようにしている。アッサムはインドっぽい響きですね。
蔵西 ペルシャを舞台に、ナン、アッサム、ボルトルという、ペルシャ人ではない異国人3人がすったもんだしてる話だなって。
高木 いろいろな文化が入り混じっている。それぞれの文化をあまり知らない人が読んでも、空想を膨らませられる描写になっていますよね。
蔵西 アッサムは、「アサシン教団」と呼ばれる人たちをもとにしていたのかと思ったんです。山岳地帯に住んでいたりするし。
でも、アッサムは魔術とか使うから違うかな、とも思ったんです。
高木 「アサシン」だったら、もっとイスラム教に傾倒しているでしょうね。彼は無神論者っぽいですよね。出自はあえて触れられていない気もします。
漫画でペルシャ的なゾロアスター教っぽい要素を描いたのは物語に奥ゆきを生み出していると思います。
蔵西 アッサムが暮らしている岩でできた小屋も、どう描写するのか悩みました。
もうちょっと岩屋風にしてもよかったけど、高木先生に送っていただいたイランの民家の石積みを参考にして。
高木 迷ったんですけど、魔術で岩を引き寄せてつくったイメージかな、と思っていました(笑)。
蔵西 「さっきまでなかったのに!」っていう、魔術でつくられた家ですから。