政治家や官僚となれば、国家を支える、体制に従うことが職責のはずなのに、理不尽さを強いられたらとてもがまんできない。信念を曲げられたら許しがたい。
これが麻布高校出身者の気質なのかもしれない。
麻布は、東京大合格者高校別ランキングで、1954年から今日まで上位10校以内をキープしている唯一の学校である。それゆえ、政界、官界、学界に、神童をごっそり送り出してきた。『神童は大人になってどうなったのか』(太田出版)で考察した麻布神童たちは、「造反」感がムンムン漂っている。なかでも安倍首相に与したくないお歴々が多い。
元文部科学省事務次官の前川喜平(1973年卒)。
加計学園獣医学部認可では「内閣府の意向が働き、とても見過ごせない」「行政が歪められた」として、安倍政権を容赦なく批判した。さらに、「安倍首相は大げさな言葉で国民を幻惑する手法を多用します。『断固として』『決して逃げません』などと言葉は立派ですが、中身はない」(「サンデー毎日」2017年10月15日号)と、こき下ろしている。
前川は官僚トップにのぼりつめるほど公僕に徹する一方、革命家を愛するという面従腹背ぶりを示した。
「文科省時代の私のノートパソコンの待ち受け画面は、チェ・ゲバラの肖像写真だった。(略)人間を解放するために戦い続けたゲバラの生き方は、この上なく魅力的だ」(『これからの日本、これからの教育』、ちくま新書)
安倍首相に与したくない「麻布神童」たち
経済産業省の官僚だった古賀茂明(1974年卒)は、2015年3月、テレビ朝日「報道ステーション」で「I am not ABE」と宣言する。官邸は「古賀は万死に値する」と怒ったが、それでも追及の手を緩めなかった。
「安倍さんの政治哲学とは、嚙み砕いて言えば、国民は『すごく怒っていても、時間が経てば忘れる』『ほかのテーマを与えれば気がそれる』『嘘でも断定口調で叫び続ければ信じてしまう』、つまり『国民は馬鹿である』ということです」(講談社BOOK倶楽部 古賀茂明スペシャルインタビュー、2017年5月10日)。
東京大法学部教授の藤原帰一(1975年卒)は2015年の安保関連法案審議において、安倍首相の思想に危険な香りを感じ取ったようだ。自身のツイッターでこう呟く。
「私が安倍政権に抱く危惧は日本の植民地支配、日中戦争、そして第二次世界大戦に対するこの政権の考えです。その危惧が、私が新安保法制に抱く懸念とも結びついています。河野談話や村山談話を引き継ぐだけでなく、明確に日本政府の侵略責任を認め、そこから未来を語ってほしい」(2015年7月18日)
城南信用金庫の元理事長、吉原毅(1973年卒)は、金融機関トップ(2011年当時)という立場ながら原発反対を鮮明に掲げていた。その理由をこう話す。
「もはや原発は反社会的存在だ。原発を造る金を貸せと言われたら、お断りする」「1回事故が発生したら、天文学的なコストがかかる。貸し倒れ引当金の積み立ての考え方を入れれば、とんでもない引き当てを積まなければならない。これは、不採算というのではないか。国家ぐるみの壮大な粉飾決算だ」(ロイターのインタビュー、2014年4月18日)