「今日、こぶちゃん絶対に打つと思うわぁ。まぁマルテが打って、阪神が勝つけどなっ」
試合は大山のホームランで阪神が先制するも、楽天がすぐに追いつき、辰己涼介のソロ、浅村栄斗の2ランなどで突き放す。息子期待のマルテは走塁のアクシデントでベンチに下がる。楽天ファンでありながら息子が落ち込んでないかが気になった。
「ホームラン2発ごめんやで……」
「マルテが心配やなぁ。あとホームランも凄いけどこぶちゃん、やっぱり自分の仕事してるで」
贔屓球団は別になったのに……何故だろう。息子との野球観戦史上最も胸がはずむ。なんだか楽しい。
もう一つの残念な報告も忘れない息子との楽しい交流戦
「かみじょうたけしさんですよね? 写真とってもらえます?」
突然声をかけられた。すると息子は黙って自分の席を立ち、その男性が僕の横で写真が撮れるようにした。
「ありがとうございました!」
男性が立ち去る。何事もなかったように息子は席にすわった。
試合は6ー1で楽天が勝った。球場からの帰り道、
「今日は負けたけど連れて来てくれてありがとう」
ちょっと待ってくれ……知らぬ間の子供の成長に目頭が熱くなった。
贔屓球団は別になったがあきらかに彼自身、野球自体を好きになっている事こそが断トツに楽しい理由だとわかった。きっと少年野球を始めて仲間ができ、そしてたくさんの方に育てていただいているのだろう。
帰り道の阪神甲子園駅、ホームに向かう階段を上りながら息子が呟いた。
「こぶちゃんみたいに一生懸命練習して、打って、近本みたいに脚が速くなりたいなぁ。あっ、あと……」
「どないした?」
「宿題まだや……」
「おいっ」
もう一つの残念な報告も忘れない息子との楽しい交流戦。きっと忘れない。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ペナントレース2022」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/54545 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。