2度目の戦力外――そして“二刀流”へ
「(ヤクルト在籍は)短かったですけど、内容は西武の6年間よりも全然濃かったと思います。一軍にいることも多かったですし、そういう意味ではヤクルトには感謝しかないです。人生の分かれ道で、結果を残せずに悪い方(戦力外)に行っちゃったんですけど、そこからは悪いなりに最高な方向に行けたのかなと思います」
ヤクルトでの3年間をそう振り返る。2020年限りで“2回目”の戦力外通告を受けて現役を引退してからは、縁あってアクサ生命保険株式会社に入社。フィナンシャルプランアドバイザーとして「第2の人生」をスタートさせた。入社2年目を迎え、今はサブマネージャーとして営業とスカウトの“二刀流”で奮闘している。
もちろん、今後も何らかの形で野球と関わっていきたいという気持ちは変わらない。仕事のかたわら、現在は府中にある草野球チーム『Unity』に所属。ヤクルト時代の先輩でUnityの「準加入メンバー」だという藤井亮太ともプレーした。将来の指導者転身を視野に、学生野球資格回復研修の受講も予定していて、一方で西武時代のチームメイトで同い年の斉藤彰吾とともに、共通の知人が立ち上げる野球事業を手伝うプランもあるという。
充実しているように見える“第2の人生”。現役を退いた今だからこそ、分かるようになったことはほかにもある。「ファン心理」もその1つだ。
選手にときめく「ファン心理」が理解できてきた
「今はゴルフ観戦にハマってるんです。女子プロゴルフで脇元華さんと篠崎愛さんっていう選手がいるんですけど、見に行くのが楽しくてしょうがないんですよ。ゴルフをやってる姿がすごいカッコいいし、華々しい。限られた人しか立てない場所で、ファンが見に来ている中でパフォーマンスを発揮している姿が本当にカッコよくて、感動しながらずっと見てますね。僕が(選手として)見られてた感覚がファン目線で分かっちゃうんですよ。何かの拍子に偶然目が合ったりすると、どう反応すれば良いか分からなくて恥ずかしくなったりもしますし、そういうファン心理っていうのはよく分かりましたね」
もっとも球場に行ってプロ野球の試合を観戦するとなると、どうしても「ファン目線」ではいられない。試合にのめり込むとつい選手目線になってしまい、純粋に野球を楽しめなくなるため、「一緒に見てる方には『全然、見てないじゃん』って言われますけど、あまり見入らないようにしています。『あ、行った』みたいな感じで」と笑う。
ヤクルトvs西武の両古巣のゲームは球場でのんびり眺めたい
今日、6月5日に神宮で観戦を予定しているヤクルトと西武の交流戦も、どちらを応援するでもなく、球場の雰囲気を楽しみながらのんびりと“眺める”つもりだ。それでも自身がかつて在籍した両チームは今でも気になる存在であり、それぞれにエールを送りたい選手がいる。
「西武だったら鈴木将平ですね。今は一軍にいないんですけど、同じ外野手で同じ左利きですし、自主トレも一緒にやってた仲なんで本当に頑張ってもらいたいなって思います。ヤクルトでは山崎(晃大朗)です。彼も同じ左利きの外野手で、僕にはけっこうフランクに接してくれた後輩の1人なんで。今はすごいチャンスですし、このままレギュラーを勝ち取ってもらいたいですね。『チャンスは一瞬』なんで」
昨年は6年ぶりにセ・リーグを制し、20年ぶりの日本一に上りつめたヤクルトは、今年もここまでセ・リーグ首位。西武は5月以降、勝率5割前後の戦いを続けながら、パ・リーグ4位に付けている。OBとして、今後の両チームに期待することは──。
「どっちも伝統あるチームですし、すごいチームだと僕は思ってます。辻監督も(現役時代は)ヤクルトにもいらっしゃいましたし、髙津(臣吾)監督と交流もあると思うんで、また日本シリーズで(対戦を)見たいですね」
今や伝説となっている野村克也、森祇晶両監督の「知将対決」を含め、1990年代には日本一をかけて3度しのぎを削ったヤクルトと西武。もし、田代の願いがかなって再び日本シリーズの舞台で相まみえることになれば、その暁には熱心なファンならよく知る“イケメン”が、再びスタンドに現れるはずだ。(文中敬称略)
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