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「ショートをやりたそうな鳥谷」という魔力に逆らえない

 3年ぶりの背景には、鳥谷の海外フリーエージェント宣言がある。2014年秋になされた鳥谷の海外FA宣言、去就は年が明けても判明せず、私は毎日近所の神社でマートンの真似をしながらノコッテクダサイ、ノコッテクダサイと祈り続けていた。残留が決まったときの脳が痺れるような喜びは、今も鮮明に覚えている。しかし。

 残留が決まって以降、鳥谷は徐々におかしくなっていった。海外への未練がそうさせたのか、精彩を欠くプレーが多く、どこか野球に集中していないように見えた。とくに2016年はエラーが多く、打率なんて私鉄電車の初乗り料金(124円)ばりに低かった。そんな抜け作のごとき状態なのに、連続フルイニング出場がかかっているから試合に出続けて、周囲からは「鳥谷を外すべき」「あいつはもう終わった」という声が聞こえ始め、私も、そう思った。だけど同時に、実況アナウンサーが「鳥谷、二塁を蹴って三塁へ! まだまだ足は元気です!」と言い出せば「ジジイ扱いすんじゃねーよ」とムカついた。鳥谷を外すべきという気持ちと、そこまでジジイじゃねえというアンビバレンツな感情が、自分の中で渦を巻いていたのだ。結局、鳥谷はショートを失ってサードへコンバートされたわけだけど、そのサードで鳥谷は見事に復活した。打率も戻した。だから私は、鳥谷が今の自分に納得しているだろうと、安易にも考えていた。考えてしまった。だけどそれは間違いだったと、2000本安打を決めたときに思った。

 2000本安打の翌朝、9月9日午前4時、新聞が投函されると同時に私は鳥谷の会見記事を真っ先に読んだ。すると喜びを語る中に混じって「ショートというポジションでは出られなかったんですが」という言葉があった。その言葉に大した意味などなかったかもしれない。だけど、でも、14年の歳月をかけて積み上げた2000本。そのとき自分はショートにいたかったと鳥谷が暗に言った気がして、もしかしたら鳥谷はまだまだショートにこだわっていて、やっぱりもう一度ショートを守りたいのではないか。そう思った。そうなるともういけない。現在36歳という現実を前にしてなお、今の鳥谷なら再挑戦できるかも、と夢みたいなことを思ってしまう。だって、ショートをやりたそうだもの。そんな鳥谷を放っておけないでしょう。とか、気味の悪いことを言い出しかねない。「ショートをやりたそうな鳥谷」という魔力に、私はどうしても逆らえないのだ。

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 もちろん、2017年の春季キャンプで鳥谷がショート争いに破れたことはわかっているし、将来のことを考えると若いショートを根気よく育ててほしい。しかしその競争の中にもう一度、鳥谷がいてもいいのではないかと最近は考える。久方ぶりに楽しそうに野球をしていた鳥谷敬36歳、契約更改の記者会見で「もっともっと上手くなれると思うから、しっかり練習していきたい」と述べる36歳、そんな鳥谷が若手に混じって競争し、俺はショートが好きなんだと全身で叫ぶプレーをもう一度くらいは、見たいなあと思うのだ。

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