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「3月ぐらいになって、『返還義務を負うにしても、気づかずに使ってしまったものについては返せない』と通告されました。市としては『気づかずに使ってしまうような額ではないのに、悪意があったのではないですか。返してください』と申し上げました。双方の主張は交わらず、裁判で決めてもらうしかないと大阪地裁に提訴しました」

市が勝訴したものの……

 判決は昨年10月、市が勝訴した。地裁は「株の売買で生計を立てており、過去に多額の税金を納めていたため、不思議に思わなかった」という男性の主張を退け、「株取引の利益がどの程度残るかはまさに死活問題で、税額などを把握していなかったとは考えられない」などと認定。男性は控訴しなかったので、判決が確定した。だが、その後返金はなされていない。

 このまま無視を決めていたら、事態は悪化するばかりだ。判決では男性に年利5%を付けて市に返金するよう言い渡されており、約1500万円だと1年間で75万円にもなる。返すのが遅れれば遅れるほど積み重なっていく。

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「そうしたことも含めて、早く返金していただきたいとお伝えしています。今後も粘り強く交渉していきたい」と市の担当者は話していた。

定額給付金の二重振り込み

 ところで、コロナ関連の給付では、多くの自治体でミスが起きている。

 最も混乱したのは2020年5月から全国民に1人当たり10万円が配付された「特別定額給付金」だろう。コロナ禍で初の緊急事態宣言発出(2020年4月7日から)という事態が進行する中で議論がなされ、一度は所得が低下した世帯に30万円を給付するとされた。だが、安倍晋三首相(当時)が4月17日に「一律1人10万円」に転換。4月30日に補正予算が可決されて、バタバタと配付が決まった。

 政府がマイナンバーカードを使ったオンライン申請を導入したため、暗証番号を忘れてロックがかかる人が続出し、市区町村の窓口はパニック状態に陥った。

 こうした給付を決めるのは政治家で、制度を具体化させるのは省庁だ。しかし、実際に支給の作業をするのは市区町村である。自治体の現場では支給決定前から国の動きをにらみながら準備を進めたが、そもそも余裕のない状態だった。

「そうでなくても行革で職員数はギリギリにまで削っています。コロナ対応の様々な業務が発生し、多忙を極めていました。パンク寸前になった保健所への応援は住民の命にかかわりかねない問題でした。そうした時に給付金の配付が始まったのです。きちんと配付するだけでも大変なのに、マイナンバーカードなどの混乱に足を取られました。二重申請をした人がいないかどうかなどの確認や照合作業にも膨大な人数が割かれました」と、東京23区の区役所幹部が語る。

 このように、誤支給が起きかねない前提条件は、十分すぎるほどそろっていた。

 2020年5月18日、福島県天栄村で二重振り込みのミスが発覚した。

「村の指定金融機関のJAで朝から振り込み作業を始めたところ、システムにエラーが表示されたのです」と、総務課職員が話す。