幼い頃にアルコール依存症の母親から虐待を受けて育ち、「絶対に母親のようにはならない」と誓っていたはずなのに――。『お酒で壊れた人が集まる場所で』(竹書房)は、アルコール依存症の予備軍になってしまった作者・最上うみみさんの壮絶な実体験を描いたコミックエッセイだ。
毎日ベロベロで仕事はままならず、酔って暴れてついに親友にも見放されてしまったうみみさんは、自助グループ“お酒をやめる会”への入会を決意したという。そこで同じ悩みを抱える仲間たちと出会い、いつしか自助グループはうみみさんの心の支えとなっていく。
ここでは、担当編集者の佐藤友宏さんに作品について伺った内容を紹介する。
「うみみさんが1作目の『壊れた家族で生きてきた』(イースト・プレス)の発売日にTwitterで一部公開していて、『すごい壮絶な人生だ』と思ってお声がけしました。うみみさんのお母さんのように家族がアルコール依存症の人の話はよく見るのですが、さらに自分自身もアルコール依存症という話はあまりないと思ったんです」(佐藤友宏さん)
自助グループで出会う“仲間”たち
うみみさんが自助グループで出会う人々は、それぞれに複雑な事情を抱えている。病気になってもお酒をやめない夫とそれを支える妻、母親からのプレッシャーが原因でお酒に走ってしまった男性、アルコール依存の父親や家族との関係が原因で心に傷を負った若い女性など、様々な人物が登場するのもこの作品の魅力の一つだ。
「作品では圧縮して描いていただきましたが、実際にはうみみさんは6年から7年くらい自助グループに通われていたそうです。それもあってか、登場するキャラクターたちにはそれぞれ全然違うドラマがありますよね。僕は青木さんという優しいおじいさんが印象に残ってます。過去にいろいろあったからこそ、人に優しくできるのかなと思いました」(同前)
友人の誘いに乗ってお酒を飲んでしまったことを自助グループで報告したうみみさんに、参加者の一人である年配の男性・青木さんが「自分も若い頃 友人の誘いを断れないタチで」と優しい言葉をかけるシーンがある。過去に同じ苦しみを味わっているからこそ、今苦しんでいる人の気持ちが手に取るようにわかるのだろう。
そんな様々な境遇の人々が集まる“お酒をやめる会”では、一体どんなことをするのか。この作品では、なかなか知る機会のない自助グループの活動についても詳しく触れている。
「最初に知ってびっくりしたのは、基本的に体験談を話すことで会が展開していくことですね。あと作中では『2日に1回』くらいの頻度で会が開かれると描かれています。期間を空けちゃうとお酒に走っちゃう人がいるから、かなりコンスタントにやっていかなければいけないんでしょうね。
作品に出てくる大吉さんという男性は特にそうなんですが、参加者たちにとっては自助グループが生き甲斐で、そのおかげで延命できている面もあるんだと思います」(同前)
果たして、うみみさんはアルコールを断つことができるのか……。
「お酒は楽しいものでもあるので、完全にダメというつもりは一切ありません。ですが、お酒のことで悩んでいるって人に言いづらかったりもすると思います。一つの方法として自助グループがあるよってことを伝えたいですね」(同前)
『お酒で壊れた人が集まる場所で』竹書房から2022年4月28日発売。
INFORMATION
『お酒で壊れた人が集まる場所で』作者の最上うみみさんによるサイン会が、2022年6月26日(日)13:00よりコーチャンフォー釧路店にて行われます。お問い合わせは【コーチャンフォー釧路店 ホームページ】まで。