パトカーの巡査は「午後2時から翌朝6時まで見張り」
「見張りですか?」
運転席のドアをノックし、訊いてみる。
「はい、まあ」
「こうしてパトカーが停まってると、営業再開はしにくいでしょうね」
「はい、まあ」
「取材にきているんですが、こういう見張りは、今回が初めてですか」
「私は(尼崎南署に)異動してきて新しいので、知りません」
すげない巡査だったが、パトカーは連日2人組で来て「午後2時から翌朝6時まで」停まっているとは教えてくれた。
さて、改めてまじまじと建物を眺める。
各店の入り口の幅、2メートル弱。玄関戸はガラガラと開けるアルミ製のよう(閉まっている)。1軒につき、エアコンの室外機が3、4台へばりついている。
角に、「いらっしゃいませ」と書かれ、1階部分を通り抜けできる箇所あり。一続きと見えた建物だが、まん中あたりに路地があり、裏の通路に続いていた。
表側と背中合わせに、裏の通路にも店の入り口があり、やはりエアコンの室外機がずらり。奇妙だなと思ったのは、表側・裏側とも看板が一つも上がっていないことと、飛田のように「お運びさん、募集」といった張り紙も皆無なこと。静かに、そしてささやかに営業を続けてきたからだろうか――。
「人の不幸は蜜の味、みたいなん、おるわ。感じわるっ!」
裏道の端に、もう一人の巡査が立っていたので、「もう誰もいませんって感じですかね」と聞く。
「いや、片付けに来ている方々がおられるようです」
玄関先に、黒いゴミ袋が積まれた店もあった。つわものどもが夢の跡のような空間だが、そういえばどこかに人の気配。裏の通路にスマホを向けているとき、頭の上から、聞こえよがしの言葉が私に向けられた。
「人の不幸は蜜の味、みたいに写真撮りに来てるおばはん、おるわ。感じわるっ」
そんなこんなの後、その日の夕方にたどり着いたのは、尼崎センタープール前駅近くの立ち飲み屋「中島南店」。そこにはかんなみ新地を「パーク」と呼んで懐かしがるおっちゃんや、その“システム”を解説してくれる御仁がいた。一方で、
「売春はどんな場合でもあかんで」
と、うなるお客さんもいた。
かんなみ新地の営業実態と、地域の人々が向ける視線はどんなものだったのだろうか。
撮影/井上理津子
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