家の中は緊張を強いられる場所に変わりました。実家であっても、夜ベッドで眠ることや、部屋のドアを開けるという当たり前のことが怖くてできない時期がありました。今も帰宅時には、まずクローゼットや浴室に人がいないかを確認しないと上着を脱ぐことができません。
「誰の身近にも存在しうること」
ただ、一方で「知識と環境が私を守ってくれた」という思いが強くあります。
私は被害直後に取るべき行動を取ることができました。大学時代に性暴力の知識を得ていたからです。証拠保全ができていなかったら、警察に連絡できなかったら、加害者は逃げ切っていたかもしれません。
家族をはじめ周囲の人たちの理解や支援にも恵まれました。そのためPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したものの、治療が比較的スムーズに進みました。
自分の事件にとどまらず、性暴力についての司法や社会の認識を少しでも変えられるなら、思いを伝えよう。そう考えて、刑事事件の被害者参加制度を使い、法廷で意見陳述を行いました。その意見陳述の全文が後日インターネット上に公開されると、大変な反響を呼びました。
被害者の生の声に初めて触れたという方もいました。今まで届いていなかった人にも届いたなら、言葉にしてよかったと思えました。
自分を「決して稀有な存在ではない」と語ったのは、女性の13人に1人は、無理やり性交などをされた経験があるという内閣府のデータがあるからです。男性にも被害者はいます。誰の身近にも存在しうることとして、私の経験についてお話ししたいと思います。
◆
証拠保全や裁判の難しさから、卜田さんは最近、性被害者を支援する情報サイト「THYME」を立ち上げた。性被害でいま、求められていることは何か。「文藝春秋」7月号(6月10日発売)ならびに「文藝春秋 電子版」では卜田さんのインタビューを掲載している。
「性暴力」私は負けなかった