米国を軸にサウジ・イスラエル関係の接近が進んでいる
もっとも、トランプ政権の盲目的な親サウジ政策は、地域をより一層不安定化させている。サウジがカタルと断交したことは、本来であれば双方の同盟国である米国が両者の間に入って仲介すべき問題であった。サウジアラビアとカタルも湾岸協力理事会(GCC)という地域機構を通じて緩やかな同盟関係にあり、GCCの連帯は米国にとっても地域の安定基盤として活用できる数少ない枠組みであった。
米軍基地は湾岸諸国に点在しており、連携に不備を生じさせないためにもホスト国である湾岸諸国間の関係が良好であることは前提条件となる。サウジアラビアがカタルとの関係を損なう決断を下したとき、米国の外交官や軍関係者は懸念を表明したが、トランプ本人はサウジの立場を支持した。トランプの支持がムハンマド皇太子の背中を押す力の一つになったことは疑いないだろう。
また、12月にトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言したことは、イスラーム諸国からの強い反発を招いたものの、サウジアラビアからは形式的な非難声明が出されるに留まっている。サウジアラビアとイスラエルは対イランで事実上の協調関係にあり、9月にはムハンマド皇太子がイスラエルを極秘訪問したとの噂も流れた(エルサレム・ポスト http://www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Did-the-Saudi-Crown-Prince-make-a-covert-visit-to-Israel-504777)。今回のエルサレム首都宣言にしても、サウジは事前に米国と協議済みであり、10月末のクシュナーのサウジ訪問の後にムハンマド皇太子がパレスチナに新たな和平案を伝達したのではないか、という報道もある(ニューヨーク・タイムズ https://www.nytimes.com/2017/12/03/world/middleeast/palestinian-saudi-peace-plan.html)。
何が事実なのか現時点ではまだ分からないが、米国を軸にサウジ・イスラエル関係の接近が進んでいることは確かである。ムハンマド皇太子の強硬策に、他のアラブ諸国は追随できるのか。中東諸国間の関係図は2018年も大きく揺れ動いていくことになるだろう。
親日家ぶりはよく知られているムハンマド皇太子だが
サウジアラビアを中心に起きている変化は、日本にとっても他人事ではない。日本は原油の8割超を湾岸地域に依存しており、そのうちサウジアラビアは35%で第1位の原油輸入先である。また、近年ではこうしたエネルギー関係を梃子に、日本は湾岸地域との関係の多角化を進めている。
ムハンマド皇太子が進める「ビジョン2030」について日本は公式に協力を表明しており、2017年3月、サルマーン国王による歴史的な訪日を契機として、「日・サウジ・ビジョン2030」が策定された。サウジアラビアで進められている改革に積極的に参入することで、日本の経済成長にもつなげようとする狙いがそこにはある。また、「ビジョン2030」の最大の目玉であり2018年に予定されている世界最大の石油企業・サウジアラムコの新規株式公開(IPO)についても、東京証券取引所に誘致することが目指されている。
日本の漫画好きという話もあるようにムハンマド皇太子の親日家ぶりはよく知られているが、果たして日本がサウジアラビアにとって信頼できるパートナーになれるかは、今後の対応次第であろう。
これまで日本の中東外交は経済関係の構築を重視する一方で、政治問題については距離を置くことが多かった。こうした消極的な外交姿勢から脱却し、混迷の中東情勢をリスクではなくチャンスと見るのであれば、日本の関与は一段深いレベルまで進むことができるかもしれない。また、サウジアラビアと米国の間で、日本が両者の「行き過ぎ」をうまく御することができれば、それは地域情勢の安定化への貢献にもなるだろう。