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「ここは自分のふるさとじゃない…」ヤマンバギャルを初めて見た帰国子女の絶望

『700人の村がひとつのホテルに』 #1

2022/06/12

source : ノンフィクション出版

genre : ライフ, 社会, 働き方, ライフスタイル

note

打ち砕かれた「ふるさと」のイメージ

 ところが、高校に入学して日本に帰国すると、私が「ふるさと」に抱いていた淡いイメージは脆くも打ち砕かれることになる。

 小学3年生で海外に渡ってから7年ぶりに戻った千葉県柏市は、東京のオフィス街から1時間ほどのベッドタウンとして、ちょうどその時期に開発が急ピッチで進んでいた。

 帰国後、早速、家の近所を歩いてみると、以前に住んでいた頃とは街の様相が全く変わっている。幼い頃に秘密基地をつくって遊んでいた裏の雑木林は広い駐車場を完備した大型商業施設になり、大好きだったアイスクリーム屋さんのあった場所には消費者金融の無人ボックスが林立し、駅前に向かうと、そこにはヤマンバのような派手なメイクをした女子高生たちが我が物顔でたむろしている。

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 もう呆然とするしかなかった。これが、自分が思い描いてきた理想の日本の姿なのか。

「ここは自分のふるさとじゃない……」

 いま思い返せば、あまりにも青臭い独りよがりな思い込みなのだが、当時の自分にとって、かつて自分の住んでいた街のこの変化は、受け入れることのできない切実なもので、帰国早々にして、途轍もない喪失感に苛まれていた。

 だが、ここがふるさとではないのなら、自分にとってのふるさとはどこなのか?
 この時期を境に、私は「ふるさと」をめぐって迷走することになる。

「あれ? タイにはジャングルはないんだ」

 話を少し戻すが、実は海外で暮らしていた時に目にしたある光景が、その後の私の進路を大きく左右し、今、この仕事をする原点にもなっている。

 小学3年生で、「熱帯のタイに住むことになったよ」と父から聞かされた時、私の頭に真っ先に浮かんだのは、鬱蒼と茂るジャングルに図鑑や絵本で見た象やサイや極彩色の鳥が活き活きと動きまわっている光景だった。ジャングルではどんな動物に出会えるのだろうとワクワクしていた。

嶋田氏が地方創生を支援する小菅村の自然 ©袴田 和彦

 ところが、タイで過ごした4年間で、そんな光景に出会うことは一度もなかった。家族旅行で、バンコクの郊外や地方に行く機会も多かったが、砂ぼこりの舞うなか、車窓から私が目にしたのは、地平線までひたすら続く赤茶けた大地や山肌に、ヒョロヒョロの細い木が枯れそうになりながら、まばらな林をつくっている光景ばかり。想像していたジャングルなんてどこにもない。

「あれ? タイにはジャングルはないんだ」とがっかりさせられたが、その寂れた光景が妙な違和感とともにずっと記憶に残っていた。