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みうら 仕事はもっと厳しいもんだと(笑)。おっしゃる通りだけど、町山君もそりゃ、あまり観たくない映画も観てると思うんだけども。

町山 観てますね。映画会社から送られてくるから観ると何ともコメントしづらい映画。

みうら それを俺は“修行映画”と呼ぶことにしたんですよ(笑)。コメントしづらいと感じた瞬間、「そこがいいんじゃない?」という肯定の呪文をかけてね(笑)。だったら、いくらでも原稿書けるんじゃないかと思って。

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「最近のニコラス・ケイジも全部やらかしてる」

町山 そうそう。一番困るのはヨーロッパ映画でよくある、格好つけただけのピンとこない作品。逆に“これやっちゃったな!”って映画はネタにできるぞと思うから、めちゃくちゃ嬉しいんですよ。『ジオストーム』(17年)とか。ジェラルド・バトラーが出てる映画は全部ひどいです(笑)。最近のニコラス・ケイジも全部やらかしてるけど。

みうら やらかしてくれればくれるほどね(笑)。

町山 あ、でも、今度の新作『The Unbearable Weight of Massive Talent』(原題)はすごいですよ。変な仕事ばかりやって映画界で相手にされなくなった借金まみれの俳優ニック・ケイジという、まんまな役で(笑)。

みうら まんまな役できるって、流石、ニコケイ(笑)。

町山 そう。ニコラス・ケイジの大ファンの大金持ちが「パーティーに出てくれたら1億円あげる」って言ってくるんです。しかも「製作費は全部俺が出すから一緒に映画を撮ろう」って。そしたらCIAが出てきてニコラス・ケイジが「あいつの正体は国際的な武器密輸カルテルの大物だ。君は潜入捜査官として彼を捜査してくれ」って言われるの。

みうら 途中で気づかせてもらうなんてニコケイ、ついてるね(笑)。

町山 そこから延々とバカな世界に突入してくんだけど、すごく面白かった。あれ他のパターンもできますよ。漫画家だったら「私があなたのために雑誌を作ります! 何描いてもいいです!」って。夢のような話じゃないですか。

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みうら 疑わないってバカ映画の鉄則だもんね(笑)。ニコケイものは連載中、何本も取り上げたけど、『ナショナル・トレジャー』(04年)はかなりの修行映画でさ、もう途中から俺、タイトルを勝手に“ナショナル・ブラジャー”だと思うようにして観たんだ。

町山 そう思いながら一生懸命観てんのすごいな(笑)。現実をねじ曲げる想像力ですね。

映画館で叫びそうになったよ

みうら それも修行の一環だから(笑)。そうそう、田村正和さん主演の『ラストラブ』(07年)もさ。

町山 若い女性と恋に落ちる話ね。病気で死期が迫って、これが最後の恋だっていう。

みうら 流石によく知ってるねぇ(笑)。冒頭はニューヨークのジャズクラブで主人公がサックス吹いてんだけど、途中からあのサックスが生きてるコブラだったらどうだろうと思いながら観たんだよ。

町山 はやぶさ映画も3本全部追っかけた?(『はやぶさ/HAYABUSA』・11年、『はやぶさ 遥かなる帰還』『おかえり、はやぶさ』・12年)

みうら もちろん、修行だから(笑)。劇中で案の定、はやぶさ、故障するわけ。それでJAXAの人が「イオンエンジンを逆さまにすればいい」ってアイデアを出して解決するんだけど、さすがに3本目になるとねぇ。

町山 だってストーリーはみんな同じなんでしょ?

みうら だから俺の方が詳しいわけで、思わず映画館で「イオンエンジンを逆さまにすればいいんだ!」って叫びそうになったよ(笑)。

町山 はやぶさ映画3本観た人、関係者でもいないと思う。

みうら 昔からコンプリート癖があるんだよね(笑)。

町山 それはある。ひとつ観始めたら、そのシリーズとかジャンルを全部観なきゃいけない気がしますよね。あれはなんだろう? 怪獣映画の頃からですよね。