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「熊はどうやって撮ってるの?」「着ぐるみに決まってんじゃん」評論家もコメントに困る“修行映画”のディープな世界

みうらじゅん×町山智浩

note

みうら 薬師丸さんが「毛がわさわさしてるから、わさおね」って命名するんだけど、それまではブサイクだから「ぶさお」だったんだよ(笑)。それに、犬ものだから当然事実に基づいてると思うじゃん?

町山 『マリリンに逢いたい』(88年)も実話が元でしたし。

みうら 『南極物語』(83年)も『ハチ公物語』(87年)も事実に基づいてこそだけど、何と、『わさお』は作りものの話なんだよ(笑)。慕っていた少年を追いかけてものすごい距離を旅する途中でね、突然、熊が出てきて格闘なんて、事実なわけないじゃん?

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町山 でも、本物のわさおが出てるんでしょ? 犬が演技してるのってすごくない?

みうら 本物のわさおって、ま、他にはいないだろうけど(笑)。

町山 それ、熊はどうやって撮ってるの?

みうら 当然、着ぐるみに決まってんじゃん(笑)。

町山 さすがに『地上最強のカラテ PART2』(76年)みたく本物の熊と戦うわけではない(笑)。『君よ憤怒の河を渉れ』(76年)にも着ぐるみの熊が唐突に出てきましたね。

みうら そんなの好きじゃん。笑うしかないじゃん? シリアスものかと思いきや、いきなり着ぐるみの熊かよ!みたいな台無しが映画をさらに面白くしてるとも言えるし。

みんな大真面目だった『北京原人』

町山 台無しといえば『北京原人 Who are you?』(97年)。

みうら “ペキフー”は最高だったね。

町山 ペキフー(笑)。みうらさん、なんでいつも略すの?

みうら いつもじゃないって(笑)。略した方がグッとくる映画の時だけだよ。やっぱ、その代表作は『シベリア超特急』(96年)だね。“シベ超”と呼ぶべきと思ったよ。後で水野晴郎さんご本人に聞いたら、その縮め方が最初は気に入らなかったって(笑)。

町山 わはははは!

みうら でも、それがヒットに繋がったと認められて俺、日本映画批評家大賞もらったんだもん(笑)。

町山 水野さんが決める賞ね。

みうら そう、みうらじゅん賞みたいな(笑)。その流れで勢いつけての“ペキフー”。公開前、北京原人タカシ役の俳優は誰だ? っていう予想クイズがあったでしょ?

町山 それでWho are you?ってタイトルなんですよね。

みうら そうそう。ヒントでイニシャルが姓・名同じっていうから、てっきり俺、田口トモロヲさんかと思ったら正解は本田博太郎さんでさ。そんなの観る前から面白いに決まってんじゃん? 秘宝にもずいぶん書かせてもらったけど、何せ体毛はあっても基本、裸でしょ? 原人。

町山 北京原人は裸なんだからコミュニケーション取るにはこっちも脱がなきゃって。

みうら 脱いで「ウパー」だよね(笑)。でも、演じてる人たちは大真面目にやってるわけ。そこが俺たちの琴線に触れるところでさ。怪獣映画の会議シーンだって同じ。制作側のふざけに気づくとやっぱ、萎えるというか。

連載で『北京原人Who are you?』に触れた回。ウパー!

町山 丹波哲郎が「なぜ北京原人とセックスしなかったんだ!」って言うけど、本人は別にふざけてないですから。

みうら どうやら丹波さんのアドリブだったらしいけど、それはふざけとは違うからね。そうそう、『幻の湖』(82年)も東宝50周年記念に作られたそうじゃない? ヘンな映画ってことになってるけど、ものすごく真面目に作ったと思うよ。

町山 映画って難しいよね。黒澤明が懸命にふざけようとした『どですかでん』(70年)が結構苦しかったりするから。

だったら俺が栗田ひろみに

みうら 『夢』(90年)もどうだろう? 黒澤さんの夢だから観たけど、大概「昨日こんな夢観てさあ」なんて嬉しそうに喋るやつの話ほどつまんないからね(笑)。大島渚監督の『忍者武芸帳』(67年)の漫画のコマに寄った映像を観続けるのは完全に修行だったし。でも、これを乗り越えないといけないんだと思って、オールナイトに通って何回も観たもんだけどさ。

町山 『夏の妹』(72年)は? あれは、みうらさんの大好きな栗田ひろみ主演でしょ。

みうら いや、『夏の妹』と、森谷司郎監督の『放課後』(73年)は別の意味での修行だったよ。だって、可愛過ぎるんだもん、栗田ひろみ。

町山 みうらさんって、彼女みたいな真ん中分けサラサラヘアに弱いの?

みうら 弱いよ。栗田ひろみとつきあえないんだったら俺が栗田ひろみと同じセンター分けロン毛になればいつも一緒にいられるじゃんと思ったんだ(笑)。

町山 それで真ん中分けにしてんだ?(笑)  じゃあ『放課後』観て、中年のおじさんに憧れて処女を捨てたいと思った? 相手は地井武男だよ?

みうら 栗田ひろみ(みうら)としては、地井武男に憧れるくだりはすごく嫌だったね。『ジェレミー』(73年)みたいに自分と同じ眼鏡かけた男の子が失恋する話ならそっちに感情移入できるけど、こちとら栗田ひろみになりきってるわけで、だから一時期『ちい散歩』観るのすらためらったもんですよ(笑)。

町山 トラウマだったんですね(笑)。僕は前回も話したけど怖がりだったから、小さい頃は怖い映画を観るのが嫌で嫌で、泣きながら“でも観なきゃ”と思ってがんばって観てました。誰に言われたわけでもないのに。あれは修行でしたね。

みうら 何のための修行なのかはよく分かんないけど、この世にはいろんな修行映画ってものがあることに気づけたのは間違いなく秘宝の連載のおかげ。感謝してますよ、町山君にはね。

マイ修行映画

みうらじゅん

文藝春秋

2022年6月9日 発売

 

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