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「なぜ私はダメなのですか!」「お立場が違います」
その好感が反感に変わるまでさほど時間を要しなかった。
私はある時、埼玉県の自民党関係者から加藤幹事長が極秘で来県するという情報を得た。直接取材する絶好の機会と思い、立ち寄り先のビルの前で待った。ほどなく黒塗りの車が到着し、加藤幹事長がSPを従え降りてきた。私は駆け寄った。その黒塗りの車から降りてきた人物がもう一人いた。橘さんだった。
どこかで加藤幹事長と落ち合い同乗してきたのだろう。忙しい政治家をつかまえサシで話を聞く取材手法のひとつが、車に同乗する「箱乗り」だ。
自分が待ち構えていた政治家と同じ車の中から自分の上司が現れたのだから多少驚きはしたが、私は橘さんに目もくれず、加藤幹事長に向かって直進した。加藤幹事長は素早くエレベーターに乗り込んだ。SPに続き、橘さんも乗り込んだ。浦和支局で大きな顔をしている普段の橘さんと違って、この時の身のこなしは素早かった。私も続こうとしたその時、SPの太い腕が私を制した。
「なぜ私はダメなのですか! あの人は乗り込んだじゃないですか!」
私は橘さんを指さして叫んだ。加藤幹事長も橘さんも黙っていた。SPが沈黙を破った。
「お立場が違います」
これが政治取材の実像か――。私は静かに閉まるエレベーターの扉を睨みつけながら悔しくて仕方がなかった。何を聞くかではなく、誰が聞くのかが重要なのだ。こんな政治取材はおかしい、いつか変えてやる、と青臭く思ったものだ。