今シーズンで横浜DeNAベイスターズにやって来て早6年目。入団したとき、これほど長い期間、一線級で活躍をしてくれるとは誰が思っただろうか。
「オトコハダマッテナゲルダケ」
惚れ惚れとする浪花節のキメ台詞。最速163キロの剛腕サウスポー。身長188センチ、体重100キロ超。プロレスラーのような大きな身体をゆすりブルペンからマウンドへ向かい駆けていくエドウィン・エスコバーの姿を見ると、しみじみ「このチームにいてくれて感謝しかない」と、思わずにはいられない。
「毎日、投げる日があっても投げない日があっても準備をしている。とにかく前の投手を受け継いで、しっかりと抑えることが一番うれしいことなんだよ。疲れ? 大丈夫だ」
ピッチングのときは強面だが、マウンドを降りると人懐こい表情で微笑み、いつもエスコバーはそう言うのだ。
若干モヤモヤとした感情が渦巻いたトレード時
2017年7月6日、DeNAと日本ハムの両球団から捕手の黒羽根利規とエスコバーのトレードが発表された。この一報を聞いたとき、まず思ったのが、12年目のベテランである黒羽根をトレードに出してしまうのか、ということだった。当時は戸柱恭孝と嶺井博希、髙城俊人が主にマスクをかぶり黒羽根の出番はたしかに減ってはいたが、チームをよく知る生え抜きのキャッチャーを何年活躍できるか未知数の外国人投手とトレードしてしまう。若干モヤモヤとした感情が渦巻いたものだ。
来日1年目だったエスコバーに関してはパ・リーグの他球団だったこともあり、恥ずかしながら、ほぼ知識はなかった。ロングリリーフもできる左腕ということと日本ハムでは14試合を投げ防御率5点台。ただ、この年の交流戦、5月30日の試合でDeNA相手に9回表にマウンドに上がり倉本寿彦、桑原将志、梶谷隆幸を三者凡退に切って取っている。パワーのあるサウスポーだなといった印象しかなく、それでも手薄だった左のリリーフの一枚としてがんばってくれればいいなあ、という感じだった。
いや本当、あのときはこんなことを思ってしまいスミマセンでした、と今さらながら反省をしている。
その後のエスコバーの鉄腕ぶりと活躍はご存じのとおり。エスコバー、エスコバー、雨、エスコバーといった具合に連投につぐ連投。大事な場面でマウンドに現れると、しっかりと試合を締めてくれる。口癖のように「登板間隔が空くより、いつだってチームのために投げたい」ってエスコバーは言うけれど、見ているこっちが心配になったのは一度や二度のことではない。
「これはやっぱり普段のトレーニングの賜物だよ」
アレックス・ラミレス前監督時代、捕手の伊藤光にエスコバーのことを訊いたとき「4連投だったり、イニングまたぎをしたり、エスキー(エスコバーの愛称)は『毎日投げるよ』って言うけど、僕らとしては壊れてしまったらどうしようって思うことはありますよね。ただ、トレーニングやケアを徹底してやっている姿を見ているので、そこは信頼しています」と言っていたり、また入団時からエスコバーを見てきた木塚敦志コーチも同じ時期に「最初からいいピッチャーだったけど、うちに来てからも進化、成長してくれましたよね。もちろん連投に関しては配慮していますが、それでも何と言うか本人は『今日も行く』と。本当に頭が下がるし、またチームにいい影響を与えてくれるんですよ。本当の意味で“助っ人”ですよね」と語っており、エスコバーの身体を張った献身たるや本当に尊いことだと思わざるを得ないのだ。
2019年はリーグトップの74試合に登板し、昨年は新型コロナの影響により開幕22試合目に一軍合流したものの、それでもチームトップの61試合に登板している。
疲れ知らずの規格外のフィジカル。エスコバーの一族は、元メジャーリーガーの父のホセを筆頭に、以前ヤクルトに在籍していた従兄弟のアルシデスなど、数多くの優秀なプロ野球選手を輩出しているが、その屈強な肉体について思わず本人に「遺伝なのですか?」と訊いたことがある。すると稀代のタフガイは笑いながらかぶりを振って言った。
「いやいや、これはやっぱり普段のトレーニングの賜物だよ。シーズン中はもちろんオフでもウェイトやランニングでコンディションを整えている。ケアも含め毎日しっかり取り組むことが大事なんだ」
火を噴くストレートに加え140キロ台のスライダー、そしてツーシームとチェンジアップを武器にエスコバーが日本ハムから移籍以来、DeNAで残してきた通算成績(6月23日現在)は、301試合登板にはじまり、302.2イニング、116ホールド、308三振、そして19勝。いずれも球団の歴代外国人投手トップの数字となる。何でリリーフのエスコバーが70年以上歴史のある球団で最多勝利数なんだ、という話は置いておいて、この数字が物語るようにベネズエラ生まれの鉄腕サウスポーは、もはや球団にとってレジェンドクラスのピッチャーだといっても過言ではない。