連敗中にチームメイトらを集めてスピーチした理由
そんなエスコバーはチームメイトの誰からも愛されるキャラクターだ。根は真面目だが、普段は明るく陽気なラティーノ。片言の日本語を操り、場のムードを盛り上げる。そしてエスコバー自身、チームメイトやスタッフをファミリーのように愛している。
今永昇太がノーヒットノーランを達成した6月7日、試合後のロッカーで待っていたのはサイレント・トリートメントだった。今永が冗談半分にチームメイトに向け大記録をアピールするのだが、それには誰も取り合わず、エスコバーは間隙を縫い「ミネイ、ナイスキャッチング!」と捕手の嶺井をアゲる一言。その絶妙な間とタイミングは喝采と笑いを呼んだ。球団の公式動画に残っているので、ぜひ見てもらいたい。
一方で昨シーズン序盤、チームが大連敗しているとき、遅れて合流したエスコバーはチームメイトやスタッフ全員を室内練習場に集め、自ら志願をしてスピーチをした。
「ここには素晴らしい選手たちが揃っている。ひとり一人が100%の力を出そう」
なぜ、あのとき皆に向かって声掛けをしたのか、エスコバーは次のように教えてくれた。
「皆が落ち込む時期がつづいていたので、義務感から行動を起こしたんだ。声を上げ、皆を励まし、チームを盛り上げたかった。幸いその後、いい結果が出始めたので、やって良かったと思っているよ。自分は本当、ファミリーの一員としてやるべきことをやっただけだよ」
まるで「ふっ、当たり前のことさ」といったクールな表情。しかしそのハートは、赤道近くにある生まれ故郷のように、じつにホットなのである。
「この横浜というチームも仲間も街も本当に大好きだということ」
昨シーズン終了後、エスコバーが新たに2年契約したことが発表された。ファンは大いに歓喜をしたが、考えてみればエスコバーほどの実績や経験があるのならばアメリカなどからオファーもあってもおかしくはない。この4月で30歳になった。年齢的にもキャリアピークを迎える時期だということを考えればなおさらだ。
エスコバーに契約延長について尋ねると、シリアスな口調で次のように語った。
「オファーをもらってから2~3週間、家族と話しながらいろいろ考えたんだ。決断した要因は、僕はもちろん家族も、この横浜というチームも仲間も街も本当に大好きだということ。残りたいって気持ちが強かったんだ」
もちろん金銭的な条件などいろいろなことがあったのだろうが、この言葉が聞けて素直にうれしかった。そしてエスコバーはつづけるのだ。
「横浜に残ったからには優勝したい。ファンの人たちは本当に熱いし、日本一に値するファンだと思うよ。ぜひトロフィーをもたらしたいね。とにかく自分の役目をまっとうするだけ。そのためだけにがんばるよ!」
球団史上最強の外国人サウスポー。
「オトコハダマッテナゲルダケ」
チームは今、厳しい状況にあるけれど、エスコバーが言うようにひとつなって戦ってくれることを信じたい。なにより仲間やスタッフとの歓喜の輪の中で、大きな身体で大はしゃぎをする、でっかい笑みを浮かべたエスコバーの姿を見て震えたい。
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