変態――。
これまで私とすれ違う多くの人から、このようなありがたい称号をいただいてきました。善良な一市民として法を守って生きている私ですが、野球選手の道具のこととなると真人間ではいられなくなってしまうのです。
とくにグラブへの執着はおぞましいものがあるようで、いろんな人を引かせてきました。大学時代に某大手スポーツメーカーの入社試験を受け、「目隠しでもグラブ革の種類を当てられます」という特技を披露した時もそうでした(その後、なぜかその会社との縁は結ばれませんでした)。
今は会社員生活の傍ら、SNSでグラブ情報や私見を発信しています。本職のグラブメーカーの方から「意見交換をしたい」とコンタクトをいただく光栄な出来事も多く、幸せなグラブ・ライフを送っています。
なぜ私がグラブに魅せられるのか。それは革の質感が好きだからでも、匂いが好きだからでも、なまめかしい形状が好きだからでもありません。グラブを見れば、持ち主の人間性がすべてわかるからです。『グラブは人なり』なのです。
「やべぇヤツのコラムをクリックしちゃったな」とお思いの方は、もう少し我慢してください。たとえば坂本勇人選手のグラブをご存知でしょうか。
グラブに自分を合わせるのか、自分にグラブを合わせるのか
坂本選手は試合専用のグラブを6~7年も使い続けています。名手・井端弘和さんのグラブが元になっており、多くの内野手にとって捕りやすい万人受けする形状です。
1年単位でグラブを替える選手が多いなか、坂本選手の物持ちのよさは異彩を放っています。しかも、打球を処理する機会が多く、消耗の激しいショートというポジションにもかかわらずです。時には冷蔵庫に入れ、グラブ表面の強度を保って使い続けているそうです。
この事実は、坂本選手の正確な捕球技術を物語っています。捕球する場所が散らばれば、グラブの消耗も早くなります。坂本選手のグラブが長持ちするということは、それだけ正確なポイントで捕球できている証拠です。
そして、坂本選手がこれだけ長く使い続けるということは、今のグラブとの相性が抜群にいいということ。一口にグラブといっても、さまざまな種類があります。自分の手の形やプレースタイルに合ったグラブを選択できなければ、安定したパフォーマンスは望めません。
あるセ・リーグの野手など、毎年コロコロとグラブを変えることがプレーの不安定さにつながっているように思えてなりません。自分に合ったグラブを見つけたい強い意志はあるものの、周囲からのアドバイスに翻弄されて迷走しているのではないでしょうか。
グラブを長持ちさせるメンテナンスと、グラブを育てる感覚。この2つの条件が揃わない限り、自分に合ったグラブを見つけることは困難です。グラブに自分を合わせるのか、自分にグラブを合わせるのか。そのマッチングは野球人生を左右します。
つまり、プロ野球選手にとってグラブ選びとは、生涯を捧げる伴侶を探すのと同じくらい大切なことです。坂本選手は「これだ!」と思えるパートナーと出会い、厳しい競争社会を伴走しています。坂本選手にチャラついたイメージを抱くファンもいるかもしれませんが、私は坂本選手に「一途さ」を感じずにはいられません。
多くのプロ野球選手はメーカーとアドバイザリー契約を結び、用具提供を受けています。そのため、グラブへのこだわりがなく、メーカーに言われるがまま消費している選手も珍しくありません。でも、そんな「政略結婚」みたいな関係では、グラブとの濃密な関係や確かな技術が生まれるはずがありません。