「事業がうまくいかない」
金儲けに目がないとはいえ、事業を趣味のようにして生きてきた光弘が、人から集めた出資金を本当に女や遊興費に使い込んだかどうかは定かではない。怪しさ満点の老紳士は「電話はまた後にしてくれませんか」と言ったきり、連絡が取れなくなった。
こうして一発逆転を狙った光弘の油田開発事業は頓挫。すでに出資者を巻き込んで大金を投じている。光弘は以降も現地で独自ルートを開拓し、油田事業の収益化を目論むのだが――。
「事業がうまくいかない」
2019年頃、松阪市に戻っていた光弘は、珍しく知り合いにこう漏らすようになっていた。追い討ちをかけるように、同年暮れには、税金未納で自宅などの所有不動産を一時、松阪市に差し押さえられる。そして、2020年5月に持続化給付金制度の申請が始まると、再び禁断の詐欺行為に手を染めていくのである。
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無数の不届き者が群がった持続化給付金を巡る詐欺は、支給のスピードを重視するために手続きを簡略化した、審査の“脆弱性”を突いたものだった。光弘は梨恵や息子たちと役割分担し、申請者集めと虚偽申請の手続きを繰り返していく。
「親父(光弘)のやってるビジネスで、30万が受け取れる話があるよ」
2020年の夏前、松阪市に住むBさんは、友人だった光弘の次男Aからこう持ち掛けられた。
「Aの父親は事業を手広くやって成功しているイメージがあったし、それならやっておこうか、と気軽にその話に乗ってしまったんです。言われるまま、通帳やマイナンバーカードなどをAに渡し、手続きをしてもらいました。その頃、Aは東京の六本木を拠点に親父のこの詐欺行為を手伝っていたようで、申請者の確定申告の書類を受け取るため、しょっちゅう税務署に足を運んでいました」(Bさん)
個人事業主に対して支給される給付金は、最大100万円。満額の支給を受けたBさんは、うち70万円を谷口家に吸い上げられた。事件発覚後、Bさんは警視庁の事情聴取に応じ、全ての経緯を打ち明けているが、申請した名義人として100万円の返還義務を負ってしまった。
「僕だけでなく何人もの友達が同じように誘われ、加担してしまいました。地元でAたちは総スカンですよ。僕も許せない思いです」(同前)