規模が拡大し、手続きは杜撰に
一方、谷口家が集めた申請者の数は、口コミや紹介でネズミ講のように膨れ上がっていった。手分けをして毎日のように虚偽申請を積み上げ、その数は約4カ月で1800件近くに達している。
「申請の場所は全国36都道府県に及んだ。谷口一家の役割分担だけでは捌き切れなくなり、一家の協力者は十数人の中心メンバーをはじめ、15グループ40人以上になっていた」(社会部記者)
規模が拡大するにつれ、谷口グループの触れ込みも誇大化した。
「有名で優秀な“税理士”がいる。頼めば誰でも必ずコロナ給付金がもらえる」
2020年9月、都内に住む自営業の男性は、人を介してそんな“儲け話”を勧められたという。その税理士の名が光弘だった。
男性の友人が語る。
「手数料として30%をその税理士、10%を紹介者に渡せば、残りのお金は申請者が『濡れ手で粟』だと。受給逃げされないよう、通帳を預かる手口だったようです。明らかな詐欺行為だし、調べてみると、全国に『谷口光弘』という税理士は存在しないことも判明。僕の友人は手続きの手順をすでに教わっていたが、すぐに止めさせました」
この時期には、谷口一家が関与したと思われる虚偽申請は、審査を通りにくくなっていた。同年8月の時点で、持続化給付金事務局が警視庁に相談していたのである。光弘が家族を放り出し、かつて一攫千金を夢見たインドネシアに向けて出国したのは、その2カ月後のことだった。
谷口グループの内情を知る関係者が明かす。
「給付金詐欺に関わる人数が増えてくると、手続きも杜撰になり、支給された金が申請名義人に渡らないといった金銭トラブルが続出。内部は統制が利かなくなり、収拾がつかなくなっていた。詐欺だと気付いた者や金が入らず追い詰められた者が『谷口を出せ』と騒ぎ出すと、光弘は『海外で事業を当てて、まとまった金を作ってくる』と言い残し、逃げるようにいなくなった」
国外逃亡から1年8カ月。スマトラ島ランプン州の農村部にある民家に潜伏していた光弘は、現地の警察に入管法違反の疑いで逮捕された。
「昨年4月、外務省から旅券返納命令を出されて旅券は失効。光弘はインドネシアでは不法滞在状態となっていた。現地では『水産ビジネスの投資家』を名乗って、新事業の機会をうかがっていたようです」(別の社会部記者)
光弘の身柄は、両国間の調整を済ませた後、日本に引き渡される予定だ。
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