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「今回の社長交代には納得できない」リクシルを追われた“プロ経営者”が創業家と全面戦争へ…CEO復帰を明言した“逆襲の記者会見”

『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より #3

2022/06/24

source : 週刊文春出版部

genre : ニュース, 社会, 企業, 経済

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瀬戸が激怒した担当者の言葉

「うちがPRの業務委託を受けている先にLIXILグループと関係の深いところがあります。瀬戸さんの依頼を受けると、ともすれば利益相反行為になってしまいます。それで誠に申し訳ありませんがお断りしようということです」

 瀬戸は激怒した。契約を結ぶ時、Aの担当者は「弊社が業務委託を受けている先には瀬戸さんと利益相反が生じる可能性があるところもあります」と確かに言った。しかし「しかし社内では完全にファイアーウォールを敷いておりますのでご安心下さい」とも語った。それが記者会見の直前になって利益相反を理由に契約の解除を申し入れてきたのだ。おまけに契約を結んでからその日までの委託料を当然のように請求してきた。

 いずれにせよ関係を継続するわけにはいかない。契約はその場で打ち切った。それからしばらく「利益相反が生じる可能性がある相手」とは誰なのかを考えたが、最重要課題は目前に控えている記者会見をどう乗り切るかだと思い直し、善後策を考えた。

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写真はイメージです ©iStock.com

記者会見には瀬戸の妻、陽子の姿も

 Aが予約した会見場は大手町のオフィスビルの2階にある会議室である。記者会見に使えそうな近隣の会議室に比べると使用料は手頃だったが、その分、エントランスから会見場までの動線が少し分かりにくかった。

 記者会見に参加するメディアは迷うかもしれないから会場まで案内をする人が3人必要だ。そのほか受付にも3人いるだろう。司会が1人、質疑応答の際に記者の元へマイクを運ぶ人が2人……。瀬戸は自ら会場へ足を運び、記者会見を開くのに必要な人数を割り出し、モノタロウのOBやOGに直接電話をかけた。瀬戸からの突然の電話に誰もが一様に驚いたが、事情を聞き、ほとんどが2つ返事で東京行きを決めた。

 記者会見の開催を決めてから実際に開くまでの時間はわずかだったにも拘わらず、吉野の事務所に10人近くが顔を揃えた。その中にモノタロウのOBやOG一人ひとりに頭を下げ、お礼を言っている瀬戸の妻、陽子の姿もあった。同じ部屋にいた瀬戸が人数を数え、「マイクを運ぶ人がどうしても1人足りないなあ」と言うと、陽子は「それ、私がやるわ」と買って出た。

 受付は陽子が営む会社で働く岩根静江が、司会はモノタロウでIRを担当していたOGの山崎知子が請け負った。記者会見で配布するプレスリリースは当日の朝までかかって瀬戸と吉野が作成した。徹夜になったのは、株主に海外の機関投資家もいて、日本語版だけでなく、英語版も2人で手分けして作ったことに加え、記者会見で出そうな質問に対する回答集も作ったからだ。

 難儀だったのは取締役候補者の略歴書作りだった。社外取締役候補となった西浦や鬼丸、濱口、鈴木はさまざまな経験をして現在に至っている。これを寸分間違えることなく経歴書に落とし込む作業は、間違いがあってはいけないため意外と手間がかかる。それを瀬戸に西浦を紹介した岸田が仕事の合間を縫ってまとめた。

 約20年前の2000年、瀬戸はわずかばかりの仲間と大阪の阿波座にあるペンシルビルに事務所を借りてモノタロウを創業した。当時、eコマースと呼ばれたビジネスの肝である情報システムですら自前で構築し、家賃5万円のマンションを借りて、そこにサーバーと冷却用のクーラーを何台も置いて商売を始めた。4月5日午後1時から始まった記者会見は、裏方にその道のプロが1人としていない何から何まで手作りの舞台だったが、それはモノタロウが産声を上げたころの様子をどこか彷彿とさせた。

 司会の山崎に促される形で登壇した瀬戸は、自分を含む取締役候補を紹介した上で2つの話をした。1つは6月の定時株主総会に株主として瀬戸を含む8人を取締役候補として提案、選任を求めるが、今後指名委員会に対し、この8人を会社提案の取締役候補にするよう働きかけていくということである。