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 1つはメディアの報道が概ね瀬戸に好意的だったことだ。記者会見で可能な限り丁寧に対応し、その後、続々と申し込まれた単独インタビューに全て対応したことも奏功したのかもしれない。瀬戸が記者会見を開いている間にLIXILグループの株価が急騰し、4月5日は前日比90円高の1654円で引けたことも好材料だった。

瀬戸の追い風となる2つの動き

 さらに瀬戸には追い風となる2つの動きがあった。1つは豪ファンド運用会社のプラチナム・アセット・マネジメントが潮田と山梨の解任に賛成すると表明し、「瀬戸氏主導の事業再生が道半ばで、経営首脳の交代に納得できない」というコメントを出したことである。プラチナムはLIXILグループの株式を議決権ベースで4・42%保有する2位株主。それが解任に賛成すると表明したことは、他の株主にも少なからず影響を及ぼすことが予想された。

 もう1つは会見当日と偶然重なった朝日新聞の報道だった。年明け以降、西村あさひ法律事務所がまとめた調査報告書の内容と開示方法を巡ってLIXILグループの取締役会はもめた。侃々諤々の議論の末、2月25日に報告書を編集した「報告書要旨」が会社名で公表され、それが機関投資家らの反発をさらに増幅させたが、朝日は「要旨」ではなく、「調査報告書」の内容を報じ、会社が意図的に公表を避けた点を明らかにしたのだ。少々長くなるが記事を引用する。

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 住宅設備大手、LIXIL(リクシル)グループの首脳人事の経緯が不透明だと機関投資家が疑問視している問題で、第三者の弁護士がまとめた首脳人事に関する調査報告書の全容が明らかになった。CEO(最高経営責任者)に復帰した創業家の潮田洋一郎氏に対する遠慮が多くの取締役にあったことがガバナンス(企業統治)上の問題を招いた原因だと報告書は指摘していたが、LIXILはこうした部分を伏せて公表していた。

 LIXILは、首脳人事の手続きの透明性について調査・検証が必要だとする意見が一部の取締役から出たことを受け、第三者の弁護士に調査を依頼した。2月25日に調査報告書の簡略版を自社ホームページで公表したが、全文公開はしなかった。首脳人事を疑問視する機関投資家が情報開示が不十分だとして反発。全文公開を求めているが、LIXILは応じていない。

 朝日新聞は2月18日付の調査報告書の全文を入手した。LIXILの監査委員会から調査を委嘱された弁護士がまとめた報告書は全17ページ。取締役全員に聞き取り調査を実施し、関連資料を精査してまとめたものだ。一方、LIXILが公表した簡略版は8ページ。社長を退任した瀬戸欣哉氏と潮田氏の対立の詳しい経緯や背景、聞き取り調査での取締役の発言など多くの記述が省略されていた。

 調査に至った経緯や報告された事実をまとめ、今後の対応を記す体裁をとっており、報告書全文の章立てにも修正が施されていた。全文には「一連の手続きにおけるガバナンス上の問題点」と題する4ページにわたる章があるが、その大半が削られ、「調査結果を踏まえた当社の対応」の章が加えられており、全文に沿った要約とは言い難い内容に修正されていた。(中略)

 簡略版では伏せられているが、首脳人事の「ガバナンス上の問題点」の検証結果も盛り込まれていた。指名委の議論が潮田氏主導で行われ、指名委が瀬戸氏の辞意を確認していなかったと指摘し、手続きの客観性・透明性の観点から望ましくないとの見解を示していた。

 さらに、「創業家である潮田氏が自分でCEOをやると言っている状況で、それに異を唱えることのできる者はおらず、誰も反対のしようがない状況だった」という調査対象者の発言を記し、「社外取締役を含めた多くの取締役に潮田氏に対する遠慮があったことが認められる」と分析。「このことが潮田氏が提案する人事に対して、ガバナンスを効かせた議論をすることができなかった原因・背景の1つになった」と指摘していた。(朝日新聞2019年4月5日)

 機関投資家と伊奈が臨時株主総会の開催を請求した時点で、指名委員会にその結果を見通すことは難しく、取りうる選択肢はいくつもあった。しかしプラチナムの発表や朝日のスッパ抜き、記者会見後の一連の報道や株価の値動きで、潮田サイドは不利な状況に追い込まれているといえた。おまけに会社は朝日新聞の報道で観念したのか、シンガポール移転のくだりなどを黒塗りにした報告書を9日に全文開示している。潮田と山梨が解任される可能性は俄然高まった。

 それでも指名委員会が潮田の意向に沿った取締役候補を立てれば、今度は批判の矛先が指名委員会に向かいかねない。さらに瀬戸は記者会見で、「現在の社外取締役で、私たちの候補者チームに参加して頂ける方がいれば、それは経営の連続性の観点からも前向きに検討したい」と語り、社外取締役の中で再任に意欲を見せていた指名委員長のバーバラ・ジャッジがなびきやすい状態も作っていた。だから指名委員会は自身を含む8人、もしくはバーバラを含む9人を会社提案の取締役候補にすることもあり得る。瀬戸はそう考えた。