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「アンサンブル・キャストです、ということは最初に話しました。ただ、彼がいることで、僕が最初に書いた脚本よりも、物語がずっと軽やかになっている。それはとても助かりました」

 ちなみに、映画祭最終日にカンヌを代表するホテル・マジェスティックのティールームで是枝監督と話していると、「お話中に失礼」と声をかける男性が。なんとサングラス姿のソン・ガンホ! 数時間後には男優賞を受賞することになるその人だ。監督に挨拶をすると「また後で!」と明るく去って行った。

「ソン・ガンホさんはレッドカーペットで投げキッスもするし、もう全然他の韓国人と違うんですよ(笑)」

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カンヌ常連のソン・ガンホ。今回は妻子も同伴していた

 彼の男優賞受賞は遅すぎるくらいだが、今回、是枝の演出によって大きく脱皮したのは、親に捨てられた経験のあるドンスを演じたカン・ドンウォンだろう。美男子すぎるが故にその殻を破ることが難しかった彼の肩に、背中に、中年の哀愁が感じられる。どんな指導をしたのだろう。

新たな魅力が引き出され飛躍したカン・ドンウォン

「ちょっと、おっさんに見えたでしょう?(笑) カッコよく撮らないよ、ということは最初に言いました。赤ん坊を背負ったり、子供の面倒を見たりする場面が中心なので。

 とにかく背中が切ないんですよ、彼は。ソン・ガンホさんは『ドンウォンは迷子になった子鹿のようだ』って。彼は帰るところがない男を演じるとすごく光ると思っていたから、『悲しい背中を撮る』と話しました。

 あとは大体、ご飯と洋服の話ばかりしていましたが(笑)、彼は脚本をすごく読み込んでいて、知り合いの養護施設出身の子に会ったり、その子のいた施設にも行っていた。すごく真摯な人です。

 メインの3人に関しては脚本の第一稿からあて書きをしていたんですが、ソヨン役をイ・ジウンさんに決めてからはドンスのキャラクターも少し変わりました。僕も今回のカン・ドンウォンさんはすごく良いと思います」

 子供を育てられない事情を抱えた若い女性ソヨンを演じたイ・ジウンは、IUとして絶大な人気を誇るシンガーだ。彼女を抜擢したきっかけは韓国ドラマだった。