根尾昂も現地観戦していた伝説の試合
2022年シーズン開幕直後の4月3日、柳裕也投手が12球団一番乗りで完封勝利を挙げた試合のある光景を見て、思い出したことがあります。柳投手が9回の続投を示す8回裏の打席へ向かう直前、ベンチから立浪監督が柳選手に何かを告げたシーン。「何を言われたのだろう……?」と、私は気になっていたのですが、試合後、柳投手が明らかにしてくれました。
「『体開いてるぞ!』。完封へ向けた言葉ではなく、まさかのバッティング指導でした(笑)」
本拠地勝利後の定番動画にしている「#一緒にどらほー」内で初めて明かしてくれた情報です。動画を見ていただければ分かるのですが、柳投手の声をかき消すぐらい、私の大きな笑い声が入っていると思います。柳選手の話術にまんまとハマったのもありますが、立浪監督と柳選手のメディアに出ていない裏話を動画で明らかにできるという嬉しさもあり、爆笑してしまいました。
この立浪監督と柳選手が会話する光景を見て思い出したこととは、2007年まで遡ります。
8月11日、宿敵巨人との首位攻防戦を、当時大学4年生の私は祖母と父とナゴヤドームへ応援しに行っていました。4時間を超えるゲームは延長12回裏1死1、2塁を迎えます。この絶好のチャンスで私と同じ1985年度生まれの堂上剛裕選手が代打で送られました。
堂上お兄ちゃん(当時の私の呼び方です)は、同年代の愛知の高校球児にとっては憧れの存在。この年にプロ初安打を放ち、一軍の舞台で活躍し始めていました。「お兄ちゃんなら絶対にやってくれるはず!」。私は固唾を呑んでグラウンドを見つめていました。
このタイミングでベンチから出てきたのは現役生活20年目の大ベテラン、立浪選手。堂上お兄ちゃんに15秒ほど耳打ちをします。結果は堂上お兄ちゃんのサヨナラ3ラン。根尾昂選手も現地で観戦して印象深いと語っていた、ドラゴンズファンの語り草となる試合となりました。
テレビ中継で絶叫しているシーンが抜かれるほど興奮していた私ですが、興奮が冷めた頃にふと思いました。「きっと立浪さんの耳打ちが結果につながったに違いない。立浪さんはお兄ちゃんに何を言っていたんだろう?」。立浪監督と柳投手の会話を見て、当時そんな疑問を抱いていたことを思い出したのです。
思い返せば、前職のテレビのスポーツディレクターを志したのも、この原体験が根底にあったからかもしれません。スポーツの魅力は“生身の人間が起こすドラマ”だと思います。そしてそのドラマは人の心を動かします。前職では、ずっと好きだった野球を中心にいろいろな取材を行いました。
「大学時代にドラフト指名漏れ、恩師との約束を胸に再起し2年後ドラフト1位を掴んだ右腕」「東京五輪を目指すアフリカの弱小国を率いる日本人監督。国境を越えた友人との夢物語」「北海道初の独立リーグを! 創設者は富良野のパン屋さん」などなど。「裏側にある真実を知りたい」という私の思いが原動力となり、前職では様々な知られざるドラマを世に出すことができました。
奇しくも現在、堂上剛裕さんと私は中日ドラゴンズ事業本部イベント推進部で同僚になりました。同い年ということもあり、社内で一番心を許して、様々な相談ができる相手です。そこで剛(タケ)さん(現在の呼び方です)に、あの試合で立浪監督に何を言われたのか聞いてみました。
「意識は左中間方向へ!」
結果は初球のチェンジアップをはじき返し、センター頭上を越えるサヨナラ3ラン。「左中間の意識が無かったら引っかけていたと思う」と剛さんは振り返ります。立浪監督の百戦錬磨の経験値が、劇的勝利の裏側にありました。
15年越しに知ることができた真実で、改めて決意しました。「#Dragons_Inside」では、選手の素顔、クスッと笑えるやり取り、歓喜の瞬間などと共に、ファンの皆さんの心を震わせるドラゴンズにまつわる知られざるドラマを追いかけていきたいと思います。皆さん、今後もドラゴンズの動画コンテンツを温かく見守ってください!
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