好事魔多し。とはよく言ったものです。

 あ、ファイターズのことではないんです。確かに先々週から先週にかけて調子よく連勝していると思ったら、上沢直之骨折とか新型コロナウイルス感染者大量発生とかに見舞われて、天国から地獄に落っこちたというか、いやそもそもそんな泣き言もこぼしてる暇はないという緊急事態な訳ですが、この感染者続出状態は何もファイターズだけに限った話ではなく、各球団が次々と大量離脱の危機に陥っていく中、むしろファイターズは一足遅れてそうなった感じです。球界全体の非常事態。

 ビッグボス新庄剛志を筆頭に1軍コーチ陣までごそっと離脱してしまったので、選手のみならずコーチまで鎌ケ谷から補充する羽目になっていますが、去年のようにチーム活動停止することもなく、まがりなりにも1軍2軍とも何とか試合はできています。どこのチームも多かれ少なかれこのパンデミックで苦労をしている中、一番大変なのがファイターズだという訳ではありません。

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何事もなければ首位打者への道まっしぐらだったのに…

 好事魔多し。ファイターズ丸ごとの話ではなくて、松本剛のことなのです。

 今年はシーズンの初めから快調で、4月を終えた時点の打率は何と.418。その後もコンスタントに打ち続けて、7月24日現在打率.355の108安打はどちらの部門でも2位以下を大きく引き離してのリーグトップです。去年までのプロ生活10年間で唯一シーズン通して1軍にいられたのが2017年だったのですが、その時の成績が打率.274の110安打。このヒットの数に、今年は早くも7月の途中でもうあと2本のところまで来ている訳です。そしてもうひとつ特筆すべきは盗塁の数ですね。去年までの10年間通算で15盗塁、115試合に出場した2017年でも6盗塁どまりだった選手が、今年はもう21盗塁もしてるんです。これはリーグ2位の成績。1位のマリーンズ髙部瑛斗が29盗塁と頭一つ抜けていますが、まだまだ追いかけていける数字です。打率と安打数と盗塁の、変則三冠王だって夢ではありません。

松本剛

 と思って、楽しみに彼の打席を観ていたのでありましたが。

 7月19日、京セラドーム大阪の対バファローズ戦でした。3回裏、普通にセンターの守備についていた筈の松本剛が、自分からベンチに下がって行ったのです。え? 今何かあった? 自力で歩けてはいるけれども、足取りがぎこちない? 故障したの? えええええっ!

 守備の最中に傷めた訳ではなく、その前の3回表の打席で自打球が当たったせいでした。翌20日に発表された診断結果は「左膝蓋骨下極骨折」。皆さん読めますか、「しつがいこつかきょく」。早い話が、膝のお皿の下の辺りが骨折したということのようです。実戦復帰までは約4週間とのこと。それなら8月中には1軍に戻ってこられるでしょうか。シーズンもまだ1か月は残っているでしょう。怪我での離脱としては、決して最悪の結果だった訳ではありません。でも。

 目前に迫っているオールスターゲーム。ファン投票と選手間投票の両方で選ばれて、初めて出場できる筈だったのですよ。パ・リーグの外野手は多士済々です。来年の松本剛が今年同様に打ちまくり走りまくることができたとしても、並みいる選手達の中のトップ3として再び選んでもらえる保証はありません。千載一遇、一期一会の晴れ舞台だったのかもしれないと思うと……いや、やめやめ! 繰り言はやめ!

 起こってしまったことは仕方がありません。泣いても笑っても骨がくっつくまではどうしようもない。「たられば」はいくらでも出てきてしまうんですよ。何事もなければ首位打者への道まっしぐらだったのになあ、とかね。シーズンの規定打席を満たすにはあと109打席が必要です。果たしてクリアできるのか。どうしてもそういうことを考えてしまいます。本人でもないのにねえ。