昨年11月3日、長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督は天皇陛下から文化勲章を受章した。野球界からの受賞は初めてのことであり、プロ野球が日本社会に大きな影響を及ぼす文化として認められたことの証左である。

 この文化勲章受章から想起されるのが62年前の天覧試合だ。昭和34年6月25日に後楽園球場で行われた巨人対阪神戦。史上初めてとなる天覧試合は、プロ野球を国民的スポーツへと押し上げたと言われ、なかでも9回裏に長嶋氏が放った劇的なサヨナラホームランはいまでも語り継がれている。

 今回長嶋氏はジャーナリスト鷲田康氏の書面インタビューに応じ、天覧試合の舞台裏について明かした。

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 この年、開幕から絶好調だった長嶋は、四月は4割4分6厘という驚異的な打率を残している。しかし相手チームの敬遠攻めにあい、調子を狂わせていく。6月に入ると、札幌遠征のダブルヘッダーで8打数ノーヒットなど、スランプに陥る。そんななか長嶋は天覧試合を迎える。

愛用のバットを枕元に並べて寝た

昨年文化勲章を受章した

 前夜、高ぶる気持ちを抑えながら、長嶋氏は就寝前にバットケースから5本のバットを取り出し、枕元に置いて床に就いた。

「天覧試合ではベストの試合をお見せしたい。巨人も阪神も監督、コーチ以下選手たちの思いは同じだったでしょう。私ももちろん、明日はベストのプレーをご覧頂きたいと言う思いで愛用のバットを枕元に並べて寝たのです」