マーク・ハミルとキャリー・フィッシャーによる「天下の名演」
小石「あと、ぐっときたのはルークとレイアの再会シーンやな。ほんのちょっとした表情の変化やさりげない目配せだけで、長い年月の間に降り積もった感情や、お互いへの温かい気遣いをしみじみ感じさせてくれる。ルーク役のマーク・ハミルも、レイア役のキャリー・フィッシャーも、スター・ウォーズ後は決して華々しい役者人生やなかったけど、このシーンを観るだけで、伊達に年を喰ってきたわけじゃないことが分かる。『天下の名演』と言ってええやろう」
恋「私がスター・ウォーズに惹かれるのも、そういう深い面が、時折顔を見せるからかも」
小石「これらのシーンも含め、今作中で示される旧作へのリスペクトについては、文句のつけようがないわ。作り手たちの『スター・ウォーズ愛』の現れやな。だけどそれが、今作の最大の弱点とも言える」
恋「誉めたと思ったら、またひねくれたことを言い始めましたね」
小石「俺が素直なことしか言わなくなったら、ただのくたびれたオヤジやで。ところで、君に質問やけど、『最後のジェダイ』が今後のシリーズ展開のために目指したミッションは、何やと思う?」
恋「(突然先輩から振られて、ちょっと緊張)。……それは、これまでずっと続けてきた『スカイウォーカー家の物語』としてのスター・ウォーズを終わらせて、世界観を広げることでしょうね」
小石「俺も、その通りやと思う。最初に作られたエピソード4~6は、ルーク・スカイウォーカーと、その父親であるアナキン・スカイウォーカー=ダース・ヴェイダーを巡る物語やったし、次に作られたエピソード1~3は、アナキンが母や妻を深く愛するがゆえに、フォースのダークサイドに堕ちてしまう悲劇やった。そして、銀河系の命運を決するのが、強大なフォースの使い手であるルークやアナキンが、ダークサイドへの誘惑に対してどう抗うか、ということや。つまり、『銀河系全体の運命は、スカイウォーカー家の親子ゲンカや夫婦ゲンカの動向次第』というわけや」
恋「世界の運命と主人公の運命が直接結びついてしまう。いわゆる『セカイ系』の走りですよね。だけど、そこがスター・ウォーズの魅力でもあったのでは?」
小石「俺もそう思うよ。エピソード4~6は、ルーカスが自らと父親との葛藤を投影した作品やし、エピソード1~3は、スター・ウォーズで自らが成功の階段を駆け上がったにも関わらず、仕事上のパートナーでもあった妻とは別れざるを得なくなった、苦悩と悔恨が反映されている。要するに、ルーカスが自らの生々しい情念やトラウマをぶつけた作品でもあったわけや。理性的に考えれば矛盾だらけの荒唐無稽な物語なんやけど、どこか人間の実存に迫る深みや重みがあり、だからこそ多くの人々を引きつけた。だけど、映画のシリーズとしてみれば『スカイウォーカー家の話』をずっと続けていたら、当然マンネリになって飽きられてしまう。ルーカス自身、『スター・ウォーズは6作で打ち止め』と宣言していたのは、それに気づいていたからやろう」
「スカイウォーカー家の物語」からの脱却と「誰もがヒーローになり得る世界」の再構築
恋「でも、スター・ウォーズはもうルーカスの手から離れてしまったし、それを受け継いだディズニーは、どんどんスター・ウォーズの新作を出し続ける意向ですからね」
小石「そこでどうしても必要となるのが、スター・ウォーズを『スカイウォーカー家の物語』から脱却させ、『誰もがヒーローになり得る世界』として再構築することやった。そやけど、いきなりそれをやったら、旧作ファンの猛反発を喰らうやろう。だから、前作の『フォースの覚醒』では、過剰なまでに旧シリーズを意識し、エピソード4の物語の流れを、ほとんどそのまま辿ってみせたわけや。主人公のレイについても、スカイウォーカー家とのつながりを暗示するような演出をしていたしな」
恋「だけど、今回の『最後のジェダイ』は明らかに群像劇ですよね。前作から主要キャラの一人だった脱走兵『フィン』はもちろんのこと、エースパイロットの『ポー・ダメロン』や、新キャラクターの整備兵『ローズ』、レジスタンスの指揮をとる女性提督『ホルド』など、それぞれのキャラクターにきちんとした物語が与えられ、成長の過程や見せ場が描かれている」
小石「そこが今回の一番の見どころやな。俺が特にぐっときたのが、ホルドおばさんや。『組織の論理を貫徹し、しかもかっこいいキャラクター』なんて、跳ねっ返りばかりが活躍するこれまでのスター・ウォーズでは、考えられへんかったからなあ。彼女とレイアとのやりとりの際に、スター・ウォーズのメーンテーマ曲でもある『ルークのテーマ』がBGMでちょこっと入る。『彼女だってヒーローであり、この世界に欠かせない存在の一人なんや』という本作の主張を、明確に感じさせる演出やな」
恋「フィンの相棒となるローズも、旧シリーズだったら『その他大勢の一人』という扱いしか受けられなかったでしょうね。この群像活劇路線、私は好きだし、スター・ウォーズ世界の奥行きがぐっと広がったと思いますよ」