7月10日(日)開幕の大相撲名古屋場所(ドルフィンズアリーナ)では、一人の三段目力士に大きな注目が集まる。
朝乃山広暉―。
大関だった昨年5月の夏場所期間中に日本相撲協会の新型コロナウイルス感染対策ガイドライン違反が発覚し、6場所出場停止と6カ月間の報酬減額50%という厳罰が下った。番付はあっという間に降下。一時は「横綱に最も近い男」と呼ばれた28歳の大器は、極めて異例の長期離脱から新たな試練の道を歩み始める。
午後1時から始まるNHK-BSのテレビ中継にも映る可能性は微妙
大相撲の番付というものは、つくづく残酷なものだ。激しい稽古の末に勝ち越しても1枚しか上がらないこともあるが、土俵に上がらなければ一気に落ちる。朝乃山は昨年7月の名古屋場所から出場停止処分が始まると、翌場所には関脇に転落した。続いて平幕、十両と1場所ごとにダウンし、今年3月の春場所には幕下となって関取の地位を失う。今場所は西三段目22枚目にまで下がってしまった。
最高位の横綱とともに、角界の看板力士として大関に7場所在位した朝乃山。観客席が埋まった午後6時前に当たり前のように相撲を取り、勝てば称賛、負けても激励の拍手と声援を常に浴びていた。
それが今場所の地位では、がらりと環境が変わる。出番は午後0時半から1時の間が予想され、砂かぶりはおろか、ます席やいす席の観客はまばらだろう。午後1時から始まるNHK-BSのテレビ中継にも映る可能性は微妙だ。
自らが招いた不祥事により、全てを失った
明るい紫色が鮮やかだった繻子の締め込みから、まわしは木綿の黒まわし。十両以上の特権である大銀杏はもちろん結えず、普通のちょんまげで土俵に上がる。大関時代の月給250万円は消え、三段目では1場所ごとに支給される11万円の場所手当しかない。2、3人いた付け人はおらず、当たり前のことながら自分のことは自分でしなければならない。関取を長く務めながら故障で幕下に落ちたある親方は言う。
「風呂敷にまわし一本だけを詰めて、薄い浴衣を着てたった一人で場所入り。幕内や十両の華やかさを覚えているから、あれは情けなかったなあ」
自らが招いた不祥事によって、朝乃山は全てを失った。代償は大きかった。