17歳でデビューし、20歳でひとり、パリに逃避。写真家・立木義浩に乞われ、27歳でヌード写真集を出版。シングルマザーとして27歳の時出産した子は、わずか7時間でこの世を去った――。

 波乱万丈な女優人生を送る加賀まりこさんが、59歳から育んできた最後の恋をせきららに語ります。

「加賀まりこ77歳。59歳から育む、おだやかな最後の恋。」を、「週刊文春WOMAN2021年秋号」より全文転載します。(全2回の2回目/前編を読む)

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初めての海外でパリに住むことに

 20歳で女優を一時休業し、単身パリに渡った加賀さんらしい。フランスではカトリーヌ・ドヌーヴのような大物女優でも、運転以外なんでも自分でする。「あら、そうなの?知らなかった。でもなんでも自分でやるのは、普通じゃない?」と言うが、個人主義の国フランスとはとても相性が良かったようだ。

 17歳から仕事をしていて、恋愛もろくにできないし、不健康に感じたのね。それで稼いだお金を全部使ってしまおうと、パリに住むことにした。1964年。初めての海外で、まずカンヌ映画祭に行ったんだけど、それはびっくりしたわね。いまだに日独伊が同じホテルっていうのが、すごい差別というか、「なんでこうなの?」って思った。ピエトロ・ジェルミ(『鉄道員』などで知られる監督)ってイタリアの監督さんと一緒だったのを覚えている。

 

映画の出演依頼を「ノー」と断る

 私が出ている『乾いた花』(篠田正浩監督)も見本市で上映されてたので、着物を着せられてパーティーに連れ回されたけど、ヤダヤダと思って、カジノに行ったの。それでルーレットの自分の好きな数字に置いたわけ。5フランくらいの、安いチップよ。そしたらディーラーが23に置き直すのよ。「なにすんだよ」って見たらウィンクされて、そこに入っちゃった。36倍。びっくりするわよ(笑)。それで私は毎晩のようにカジノに行き、そのディーラーに賭けた。ディーラーがこの角度、スピードで投げ入れたら、狙った数字が出る。「そういうことだな」っていうのは子供心にもわかった。

 カンヌでは他にも大人の事情がわかって、面白かった。ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、ロマン・ポランスキーといった監督が『乾いた花』を観に来て、「素敵だ」っていって、ご飯をご馳走してくれたりしたけど、全く私を子供扱い。だって、ゴダールが次の日に私にくれたのは、クマのぬいぐるみ。「なあに、これ?」って(笑)。