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プロ入りしてから「唯一、完璧」なヒットを放った日

 プロ1年目は、243打席(1軍で7打席、2軍で236打席)、2年目は285打席(1軍で62打席、2軍で223打席)と着実に経験を積んできた。今年は381打席(7月31日現在)立ってきた。その中で「唯一、完璧」な打席がある。

 7月14日のヤクルト戦(バンテリンD)。3回2死一塁で、先発・小川泰弘が投じた2球目の外角143キロをセンター前へはじき返したヒット。本人がスマホで動画を流しながら1コマずつ再生と一時停止を繰り返して説明してくれた。打ち終わりに顔が投手方向ではなく、ホームベース付近に残っている。「しっかり、残ってるっしょ!」と興奮気味に教えてくれた。

「今までにない完璧な打ち方だったんですよ。プロ入りして一番。めっちゃきれいな打ち方。(小川が)真っすぐ多めだったんで、外の真っすぐを狙い、それをしっかり振り抜くことができた。悪いと力んでヘッドが出てこず、ファウルか三遊間方向の弱いフライになっていると思う」。今でもあの好感触は忘れられないという。

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 引き出しが増えて、打席の中でも配球を考える余裕ができた。現役時代は、猛練習と野性的な打撃で1581安打を放った森野打撃コーチとは常に配球論を交わす。本拠地の試合前には、必ずバント練習を行なってミートポイントの確認を怠らないのも、好調を支える要因なのかもしれない。

 どれだけヒットを飛ばしても「試合に負けたら意味がない」が口癖。「チームが勝つ瞬間がうれしいんですよ。みんなでハイタッチして。一体感? やっぱ勝ちたいよね」。高卒3年目ながら、勝利へ絶対的なこだわりを見せる。

 その一方で、優しさも人一倍。7月30日の2軍・オリックス戦(富田林)でプロ初登板した同期入団の竹内龍臣には、1日遅れたが「(初登板できて)良かった。一緒に頑張ろう」とメッセージを送った。「僕の夢は(石川)昂弥、竹内の高卒同期の3人で居酒屋に行くことかな」と話していた仲間が、ようやくたどりついた実戦のマウンド。昨年10月に右肘の疲労骨折で手術を経験し、2年間けがと戦った同級生のスタートを心の底から喜ぶ。ごく親しい知人の子どもからもらった「おさるさんへ」というファンレターを「お守り」と言って、こっそりカバンにしのばせる心優しき20歳。グラウンドで魅せるプレーと普段のギャップもまた魅力的なのだ。

 チームは、後半戦の開幕から広島に3連勝。最大13あった借金を1桁の9に縮め、Aクラス浮上へと加速する。背番号60は「目標はすごく大事。規定打席到達は最終目標ではないが、まずはケガなく、チームを離脱することなくやっていきたい。そこで(規定に)到達できれば、一つの目標は達成することができたと言える」。明るく、元気に、自分らしく。背伸びすることなく、すくすく成長する。

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