2017年、世間を騒がせたニュースの渦中にはいつも「おじさん」がいました。まさに“オモテに出てはいけない”二階俊博議員から、籠池ファミリー、立憲民主党の枝野代表、船越英一郎に出川哲朗、貴乃花親方、海外ではトランプ大統領やケヴィン・スペイシー……。今年ニュースになったおじさんを一気に振り返ります。「年末座談会 2017年おじさん大賞」、後編も大盛り上がりです(前編も公開中です)。
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女の子よりおじさんのほうが惨めに傷ついているかもしれない
――涼美先生はいかがですか? 今年気になったおじさん。
鈴木 私も、ハリウッドのセクハラ問題は気になってました。ハーヴェイ・ワインスタインおじさん。
鹿島 プロデューサーのワインスタインを発端にセクハラの告発が相次いでいて、SNSでは「#MeToo」のハッシュタグを使った投稿が盛り上がっています。イギリスでもファロン国防大臣が過去のセクハラ疑惑で辞任していますし、この波が日本にやってきたらどうなるのか、と思いますね。
鈴木 告発した人の勇気を軽んじるつもりはないけど、私のスタンスとしては、おじさんの悪口は超言いますけど、負の遺産であり有害なバブルオヤジを倒そう! みたいに構えて対立しているとあんまり楽しくないので、楽しくいじりたい、というのがあります。ハリウッドのセクハラだって、日本で報道されるときはどうしても簡略化されてしまうし、被害を訴えている女性にフォーカスされます。でも女性が戦略的にポジションを得ようとして、「ちょっと寝たら役もらえるっていうから寝ただけなのに、向こうがはまっちゃって超キモかった」っていう話も、絶対あると思うんです。
意外と女の子の方が戦略的でしたたかで、おじさんのほうが惨めに傷ついているかもしれない。これは『Black Box』を出版された詩織さんの報道の時にも少し感じたんですが、あの事件を普遍化して語っては、物事の本来的にもつ滑稽な部分が見えなくなります。というかね、日本の女の子って就活の時に結構いろんな人と寝るんですよ。
鹿島 えーっ、一般論として言い切っちゃっていいの?
鈴木 【テレビ業界、就職相談、赤坂、お酒】って、ほとんど【スキー、彼氏、温泉】と同じぐらい打率いいんですよ。
鹿島 そんな世界があるんですね。おじさんのセクハラって、絶対権力とも関わってるじゃないですか。で、そういうおじさんは意外と不遇な青春時代を送っていて、富や栄光、権力をつかんだ人は、悲しいかな女の子をどう扱うかというノウハウが分からないから、一気に優劣が逆転するっていうパターンはすごく分かりますけどね。
船越英一郎は健やかなる時に愛し、島尾敏雄と長門裕之は病める時に愛した
鈴木 あと私、今年はけっこう船越英一郎さんに注目してました。
おぐら 船越英一郎! 今年みうらじゅん賞を受賞したんですよ! あ、すみません。続けてください。
鈴木 (笑)。私は松居一代さんがすごく好きだったから、今でもずっと松居さんを応援しているんです。最初は「船越さんひどいな」って思ってた。だって船越さんだけ、この「不倫、ダメ絶対」の世の中で「不倫したかどうかは別として」と制裁を留保されているじゃないですか。ある種の被害者として。そして、奥さんの方が完全に加害者になってる。先に浮気したのは、もしかしたら船越さんなのかもしれないのに。
鹿島 確かに、唯一無二の存在ではあります。
鈴木 船越さんのことを『死の棘』(新潮文庫)の島尾敏雄と勝手に比べて、「自分の所業が原因で心を病んだ妻に寄り添わない夫」はひどいと思ってたんです。私、『死の棘』を読み直したんですよ、松居一代について考えながら。
『死の棘』の冒頭、島尾敏雄は不倫前までダメな夫だったことが描かれています。隣の家では家族団らんの時間があるのに家にも帰ってこないわ、酒ばかり飲んで、旅行に連れて行ってくれたことなんて一度もないような夫だった。で、妻が完全に狂ってから、夫婦愛を発揮するんですよね。これを読んで、長門裕之さんと南田洋子さんを思い出したんです。
鹿島 僕が中学生の時に出た『洋子へ―長門裕之の愛の落書集』(データハウス、1985年)はあけすけな内容で仰天しましたが、2009年にも暴露本『待ってくれ、洋子』(主婦と生活社)が一大ムーブメントを起こしました。
鈴木 そう。長門さんは超浮気性の人だったけど、南田洋子さんがアルツハイマーになってから献身的な寄り添い方をしていた。船越さんは、真逆で、妻が病んだら見放した。結論としては、おじさんは健やかなる時か病める時か、どちらかしか愛してくれないのかと思って。
おぐら 船越英一郎は健やかなる時に愛して、島尾敏雄と長門裕之は病める時に愛したのか。
鈴木 そう考えたときに、自分だったらコンディションがいい時に愛してくれるほうが旅行にも行けるし、楽しいし、幸せだし、やっぱり英一郎アリなんじゃないかなって思い直しました。