谷口光弘容疑者(48)らが家族ぐるみで9億円以上もの持続化給付金を騙し取った事件。警視庁は8月2日、谷口容疑者や元妻の谷口梨恵容疑者(45)、長男の大祈容疑者(22)ら関係者5名を詐欺罪で再逮捕した。

 約1800件もの虚偽申請を乱発した谷口一家。詐欺の手口や、主犯の光弘容疑者の転落人生を詳報した「週刊文春」の記事を再公開する。(初出:文春オンライン 6月8日掲載 年齢・肩書き等は公開時のまま)

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 赤道を跨ぎ、大小1万3500もの島々から成るインドネシア。この島嶼国家へ逃げ込んでいた指名手配犯の谷口光弘が6月7日夜、スマトラ島南部のランプン州で現地警察に身柄を確保された。

警視庁公開の光弘容疑者の写真

 コロナ給付金詐欺の摘発が相次ぐ中、同一グループでは最大規模となる約9億6000万円を詐取したのが、光弘を大黒柱とした谷口一家だ。元妻の梨恵、長男の大祈、次男のA(犯行当時19)の3容疑者は5月30日、詐欺容疑で警視庁捜査二課に逮捕されている。

 光弘の起伏に富んだ半生を辿ると、インドネシアを逃亡先に選んだ背景、そして「やり手の実業家」から「詐欺一味のボス」に身を堕としていく軌跡が、くっきりと浮かび上がってくる。

実業家として頭角を現し、事業を拡大

「家長の光弘は、山っ気が強く、金儲けが大好きな男です。指名手配写真の印象とは違い、人当たりがよくて頭も切れる。奥さんや息子たちは、いつも光弘に言われるがまま仕事を手伝うだけでした」(知人)

 光弘は“豪商の街”として知られる三重県松阪市で生まれた。中学時代は陸上部で鳴らし、文武両道を地で行く優等生。地元の有名私立高校に進学後は、早稲田大学を目指し、勉学に励んだ。ところが、「合格確実」と言われながらも、早大受験に失敗。大きな挫折を味わっている。

高校時代の谷口光弘容疑者(卒業アルバムより)

 その後は市内の学習塾で講師をしながら生計を立てたが、「東京へ行って、ホストになって稼ぎたい」と言い出し、まずは地元で水商売の修行を始めた。今から27年前、光弘が勤めていたバーのマスターが振り返る。

「ミツ(光弘)はうちで2年ほど修行した後、20代前半で独立しました。上京はせず、松阪駅近くで『サンタムール』(※仏語で聖なる愛の意)という小さなカウンターバーをオープンさせたんです。商売の才覚があったんでしょうね、20代のうちに市内にバーをもう1軒、さらに洋風居酒屋の経営も始め、複数の飲食店のオーナーになりました」

光弘が28年前に修行した松阪市内のバー

 実業家として頭角を現した光弘は、30歳前に宅建免許を取得。今度は一発合格だったという。こうして不動産業に進出すると、グルメや美容をテーマにした女性向けローカル情報誌も発行するなど、精力的に事業を拡大した。プライベートでは、歯科衛生士だった梨恵と結婚。3男3女の子を持つ“ビッグダディ”となり、中古ながら市内に露天風呂付の大邸宅を購入する。

 しかし2011年、住宅ローン融資を巡る詐欺事件を起こして逮捕されると、順調だった光弘の実業家人生は暗転していく――。