文春オンライン
インド・中国・パキスタンが繰り広げる「南アジア三国志」

インド・中国・パキスタンが繰り広げる「南アジア三国志」

激しいつばぜりあいは日本にとっても無縁でない

2018/01/07
note

「クリケットの英雄」は首相の座を射止めるか――パキスタン

 インドに先がけて総選挙を迎えそうなのがパキスタンだ。シャヒド・カカーン・アバシ首相は2017年12月、投開票を2018年7月15日とする考えを表明。選挙まで半年あまりということで、各党の動きが慌ただしくなってきている。こうしたなか、国民的英雄で「パキスタン正義運動」(PTI)を率いるイムラン・カーン党首がどこまで旋風を巻き起こせるかが最大の焦点だ。

 現在65歳のカーン氏は元々クリケットのスター選手で、1992年のワールドカップでは主将としてパキスタン代表チームを初の優勝へと導くなど輝かしい実績を持つ、いわばイチローのような存在だ。甘いマスクも相まって、若者を中心に絶大な人気を誇っている。引退後に政治腐敗の一掃を掲げてPTIを立ち上げ、同党は2013年総選挙では野党第2党にまで議席を伸ばした。

カーン党首は“パキスタンのイチロー” ©getty

 きたる総選挙は、カーン党首にとって正念場と言える。最大のライバルだったナワズ・シャリフ首相(当時)に「パナマ文書」がらみで疑惑が浮上し、2017年7月に失職したことは追い風だが、情勢は予断を許さない。現与党の「パキスタン・ムスリム連盟(ナワズ派)」は、シャリフ前首相を欠くものの、パキスタンで人口でも議席数でも約半分を占めるパンジャーブ州で支持があるからだ。この地盤にPTIが食い込んでいくことができれば、政権交代、そして「カーン首相」誕生の可能性が高まってくる。

ADVERTISEMENT

「一帯一路」の本格始動――中国

 中国は2017年10月に第19回共産党大会を開き、習近平主席のもとで新指導部が選出された。2018年は、3月の全国人民代表大会で政府の陣容が刷新され、2期目の習政権が名実ともに始動する。

 習主席が3期目を目指す可能性も一部で取り沙汰されているが、まずはこれからの5年間でレガシー(遺産)を残そうとするのではないかと見られる。対外的には、1期目に鳴り物入りで登場した広域経済圏構想「一帯一路」の中身を充実させていくことになるだろう。

 南アジアとの関連では「中国・パキスタン経済回廊」(CPEC)の推進が軸だ。しかし、新疆ウイグル自治区カシュガルからグワーダル港を結ぶルートでインフラを開発しようとするCPECに対しては、インドが領有権を主張する地域を経由しているとして猛反発している。

 さらに、中国は2017年にブータンに近い地域でインド軍と対峙するなど領土問題が未解決であり、インドが警戒感を強めている。ネパールやスリランカなど南アジア周辺国に対しても、硬軟取り混ぜながらじわじわと影響力を強めようとしていくことは間違いない。