2022年上半期(1月~6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。裁判部門の第4位は、こちら!(初公開日 2022年5月2日)。
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2008年、東京都江東区のマンションで、会社員の女性Aさん(23=当時)が、殺害された「江東マンション神隠し殺人事件」。犯人の星島貴徳(33=逮捕当時)が、被害者の2部屋隣に住んでいたこと、ノコギリなどで遺体を切断しトイレに流すといった凶悪さ、何食わぬ顔で犯行後も報道陣の取材を受けるといった行動が、世間を震撼させた。星島の公判を傍聴したノンフィクションライターの高橋ユキさんが、公判の様子を振り返る。(全2回の1回目。後編を読む)
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「女性を性奴隷にしたかった」
2008年4月18日、金曜日の夜。東京・江東区の賃貸マンションに住む会社員の女性・Aさん(23=当時)が行方不明になった。
Aさんは一緒に住んでいた会社員の姉に対して、帰宅直前にメールを送っていたが、姉が帰ると、Aさんの姿はなく、部屋の壁には血がついていた。防犯カメラには、その日の夜にAさんがマンションに帰宅する様子は記録されていたが、外に出ていったことを示す映像はなかった。
突如としてAさんの姿が消えたこと、すぐには居所が判明しなかったことなどから、当時この事件は“神隠し”として連日大きく報じられた。事件から1ヶ月以上が経ち、逮捕されたのはAさんとその姉が住む部屋の、ふたつ隣で一人暮らしをしていた星島貴徳(逮捕当時33)。“神隠し”マンション住人のひとりとして、報道陣からの取材に何食わぬ顔で答えていた男だった。
Aさんは、帰宅したところを星島に捉えられ、その日のうちに殺害されていた。また遺体は、完全にバラバラにされて遺棄されていた。金目的ではない。星島は当時、SEとして稼働しており、月約50万円の収入があった。現在すでに無期懲役が確定している星島は、かつて一審公判で「女性を性奴隷にしたかった」と語っていた。
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自室でAさんの遺体を細かく切断し、遺棄
住居侵入、殺人、死体損壊、死体遺棄、わいせつ略取の罪で起訴された星島の公判は2009年1月13日から東京地裁104号法廷で開かれた。裁判員制度が始まったのは同年5月。全国初の裁判員裁判が同地裁で開かれたのが8月。まさに直前のタイミングである彼の公判は、早晩始まる裁判員裁判の、いわば“予行演習”にも見え、非公開で争点や審理計画を決める公判前整理手続を経て、公開の法廷では集中審理が行われた。裁判員のいない裁判員裁判のようなイメージである。