2008年、東京都江東区のマンションで、会社員の女性Aさん(23=当時)が、殺害された「江東マンション神隠し殺人事件」。犯人の星島貴徳(33=逮捕当時)が、被害者の2部屋隣に住んでいたこと、ノコギリなどで遺体を切断しトイレに流すといった凶悪さ、何食わぬ顔で犯行後も報道陣の取材を受けるといった行動が、世間を震撼させた。星島の公判を傍聴したノンフィクションライターの高橋ユキさんが、公判の様子を振り返る。(全2回の2回目。前編を読む)
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警察は複数回、星島の部屋を尋ねたが…
裸の写真を撮影して脅迫に使おうと思うも、星島はデジカメを持っていなかった。仮に脅迫がうまくいったとしても、怪我の痕が残ることで不審に思われ、いつか自分のしたAさんへの行為が明るみに出る。そんな不安から勃起もせず、無理矢理Aさんを襲うこともできない。AVを観ても状況は変わらなかった。こう着状態の22時20分頃、部屋のドアを叩く音がした。Aさんの姉からの通報を受け、警察が来たのだ。
性奴隷という実現可能性の低い計画を実行するいっぽう、星島は機転のきくところがある。このとき、自ら部屋を出て「事情を知らない住人」を装ったことで、Aさんがいる部屋の中を見られることがなかったのだ。
のちも警察は複数回、星島の部屋を訪ねた。しかしいずれにおいても、星島がやりすごしている。だがこの初回の警察とのエンカウントが星島の心を決めさせてしまった。
「自分の道具を人殺しに使いたくない」
「918号室に入られると、すぐにAさんが見つかって逮捕されると思った。逮捕されると仕事も住む場所も、将来も、全部なくなると思いました。助かる方法を考えました。
自分が女を拉致、強姦目的で連れ去った、そんな前科が付くことをとても恐れてたと思います。むしろそっちの方が強いのかもしれない。前科がついて、後ろ指をさされる……。逮捕されずに帰す方法を考えました。
Aさんと私が付き合ってて痴話喧嘩で殴ったことにする……ただそれはAさんと口裏を合わせないと意味をなさない。到底無理だと思いました。いきなり拉致して殴りつけた男の願いを聞くわけがない。包丁で脅しても意味がない。
結局、痕跡を消すために、警察に見つからないように、バラバラにして部屋に隠そうと考えた。そのためにはAさんを殺さないといけない。殺す方法を考えました。確実に殺すためにAさんを失血死させようと思いました」