文春オンライン

2022/08/27

 巣を駆除するときにはハチ用の防護服を着るのだが、防護服を突き破って刺されてしまうこともある。防護服は完全防備ということではなくて、あくまでも刺されにくくなる程度のものなのだ。

 準備をしている最中、ヒロポンさんが「万が一のために」と言って取り出したのは、針のない注射器のような形状の筒。ポイズンリムーバーと呼ばれる応急用の毒の吸い取り器だ。今日僕たちが相手するオオスズメバチは日本にいるハチの中で一番毒量が多い。念には念を入れて損はない、ということだ。

スズメバチ駆除の際は防護服を着用(画像は別日) ホモサピさんのYouTubeチャンネルより

 車の駐車位置も考え抜いた。巣がある場所に対して車をバックで入れて「誰かが刺されたら車に運んですぐに病院に行こう」などと話し合いながら、僕の頭には「もしかしたら今日ここで死ぬのかも」という思いがよぎった。

 でも、僕はめちゃくちゃ興奮していた。日常では味わえない死の緊張感、みんなでひとつの目標に向かっていく文化祭の前夜のような高揚感、そういう雰囲気がそこにはあった。ハチの巣取りの醍醐味はこのドキドキだ。命を賭けることでしか得られない高まりを感じた。

 オオスズメバチは地中に巣を作ることが多い。現地にいても羽音があまりしないので、このあたりに巣があるのはわかっているのに、オオスズメバチが近くにいるという実感が湧かなかった。少し拍子抜けしつつも、地面にあるハチの出入り口の穴にめがけて「いっせーの!」という掛け声で殺虫スプレーを噴射しまくった。このスプレーはスーパーに売ってる普通の殺虫剤だ。

スズメバチの駆除には市販の殺虫スプレーを使用する ホモサピさんのYoutubeチャンネルより

 スプレーを噴射した瞬間、巣から爆音の暴走族みたいな羽音が一斉に聞こえた。「ブーンブーン」というかわいい音じゃない。何百匹ものデカい生き物が「ブォオオオオオ!」と全力で羽ばたいている。こんな音が自分の真下から聞こえるだけで人間は“死”を感じてしまう。傾斜のキツいジェットコースターで急降下するときのように、脳が「あっ死んだ」と判断した。