初めてハマチを釣った時のことは今でも鮮明に覚えている。それは頭の記憶というよりは、どちらかといえば手の記憶だ。スマホに写真が残っていた。6年前の10月6日。高校時代の同級生と淡路島に繰り出して護岸からキャストを繰り返していると、竿を持つ左手に初体験の重みと強い振動を感じた。勢いのままフッキング(竿を上に振って食らいついた魚に針をかける)。すると、反発するように獲物が海中に竿を引きずりこもうとした。これが「青物」の引きか。
興奮しながら何とか引き寄せてランディング(釣り上げる)。それなりの大物を期待していたが、想像よりも小ぶりで拍子抜けした。タックルボックス(道具箱)にあったメジャーで測定すると40センチそこそこ。小さな体躯に秘められた底知れぬパワーが忘れられない。
「九州四天王」と呼ばれた逸材 満を持して、6年目でブレイク!
浜地真澄がタイガースからドラフト4位で指名されたのは、それからちょうど2週間後のことだった。同期入団の1位は大山悠輔で、5位には糸原健斗。須磨翔風高から3位で入団した才木浩人とともに、福岡大大濠高からタテジマに袖を通した高卒右腕は次代のエース候補として期待された。
そして、ドラフト当日から2週間も経たないうちにスポニチ紙面には名字の「ハマチ」にかけて「浜地 ブリになる 出世間違いなし好素材」の見出しが躍った。釣り人ならハマチが出世魚であることは知っている。誰もが、その先のメジロやブリの大物に憧れて海に出る。筆者は60センチ台後半のメジロを釣り上げたことはあっても、ブリは夢物語。
ちなみに、タイガースの選手では20年まで在籍した横山雄哉が淡路島沖でブリを1日で2本も釣る“快挙”を成し遂げている。ついつい話が海の方に逸れてしまうが、当時18歳の浜地も「ブリになるんですよね! (名前の縁起も)良い方に捉えていきたい。1年目から一軍で投げて(チームに)貢献したい。自分が投げられるレベルにあるならば、甲子園で早く投げたい」と“大物”に成り上がる野望を口にしていた。
高校時代はオリックスの山本由伸(都城)らとともに「九州四天王」と称された逸材。ただ、3年目で一軍デビューを果たしたものの、2年目に54試合に登板して鮮烈なデビューを飾っていた山本の話題には「四天王……それは言わないでください(笑)」と表情をゆがめていた。
それでも、着実に経験を積んで躍進への土台はできつつあった。昨年は一軍で4試合の登板に終わったものの、ファームでは主にリリーフ起用されて37試合でリーグ2位の8セーブ。オフは2年連続でソフトバンクの千賀滉大と合同自主トレを行う機会にも恵まれており、球界屈指の右腕の助言をもとにフォーム修正にも着手した。